・・・ ニュートンの光学が波動説の普及を妨げたとか、ラプラスの権威が熱の機械論の発達に邪魔になったとかという事はよく耳にする事である。ある意味では確かにそうかもしれない。しかしこの全責任を負わされてはこれらの大家たちはおそらく泉下に瞑する事が・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・そうしてこれらの構成要素はそのモンタージュのリズムによってあるいは急にあるいはゆるやかなる波動を描いて行く、すなわち音楽的進行を生ずるのである。 映画の一つのショットは音楽の一つの楽音に比べるよりもむしろ一つの旋律にたとえらるべきもので・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・それでアルベール自身の頭の中に経過しつつある不安な警戒の念が彼の絶えず移動する目のくばりに現われて、それが直ちに観客の頭に同じような感情の波動を伝えるのである。そうしておもしろいことにはこのシーンの伴奏となりまた背景ともなる音響のほうはなん・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ニュートンが光の微粒子説を主張したという事がどれだけ波動説の承認を妨げたかは人の知る所である。またラプラスが熱を物質視したためにエネルゲチックの進歩を阻害した事も少なくない事は史家の認める所である。あえて昔に限った事はない、現在でもそういう・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・の読める人にとっては、アインシュタインの相対性原理の論文でも、ブロイーの波動力学の論文でも、それを読んで一種無上の美しさを感じる人があるのをとがめるわけにはゆかないであろうと思う。ただ事がらが非情の物質と、それに関する抽象的な概念の関係に属・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・尤も映画で見られるほどの運動は老人の膝に認められないが、微細な波動がないとは云われないのである。 しかし、また一方から考えると、元来多くの鳥は天性の音楽家であり、鴉でも実際かなりに色々の「歌」を唄うことが出来るばかりでなく、ロンドンの動・・・ 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
・・・ニュートンは物体から微粒子が飛んで来るのが光だと考えたが、ハイゲンスが出て来て波動説を称えこれが承認されるに幾多の年月がかかった。それも始めはエーテルの弾性的の波であると考えられたのが、後には電磁気波でなければならぬと考えられることになった・・・ 寺田寅彦 「研究的態度の養成」
・・・縁端にずらり並んだ数十の裸形は、その一人が低く歌い出すと、他が高らかに和して、鬱勃たる力を見せる革命歌が、大きな波動を描いて凍でついた朝の空気を裂きつつ、高く弾ねつつ、拡がって行った。 ……民衆の旗、赤旗は…… 一人の男は、跳び上る・・・ 徳永直 「眼」
・・・積極的活力の発現の方から見てもこの波動は同じことで、早い話が今までは敷島か何か吹かして我慢しておったのに、隣りの男が旨そうに埃及煙草を喫んでいるとやっぱりそっちが喫みたくなる。また喫んで見ればその方が旨いに違ない。しまいには敷島などを吹かす・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・現に今小さい波動として、それが起りつつあるかも知れません。けれども要するに小波瀾の曲折を描く一部分に過ぎないので大体の傾向から云えばどうしても自然主義の道徳がまだまだ展開して行くように思われます。以上を総括して今後の日本人にはどう云う資格が・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
出典:青空文庫