-
・・・といい罵るものもありましたが、また元の奥様を知っていた人から、すぐに聞たッて、一々ほんとうだといい張る者さえあったんです。その話というはこうなんです。 人の知らない遠い片田舎に、今の奥さまが、まだ新嫁でいらしッたころ、一人の緑子を形見に・・・
若松賤子
「忘れ形見」
-
・・・我を張るのは自己を殺すことであった。自己を愛において完全に生かせるためには、私はまだまだ愛の悩み主我心の苦しみを――愛し得ざる悲しみを――感じていなくてはならない。 しかし私はこの愛の理想のゆえに一つの「人間」の姿を描きたいと思う。主我・・・
和辻哲郎
「生きること作ること」