・・・西欧の文学はその時代において一方にプロレタリア文学の道を拓き、その反面自身の歴史的展開の方向を見失った面では、フロイドの学説に動揺する心理のよりどころを見いだし、心理主義に進んだ。その女流選手であった英国のージニア・ウルフが、こんどの大戦が・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ しかし、この反面には面白いことが一つあります。それは、ためしに、そういうしごき姿の娘さんの一人に向ってこうきいたら、その返事はどうでしょう。 もしもしお嬢さん、大変古風なおこのみですが、あなたの御盛装が意味しているとおり、民法が昔・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・女で、職業や仕事をもっている人のとき、私たちは、どうせ楽なのではないから、とこの現実の裡で家庭と仕事を両立させて行こうとする女の困難さをあからさまに見た上で、大変だろうがという反面に、でもね、と認めるものがあったのである。 結婚の幸福と・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・それらを包蔵する社会の全面的、根本的前進があってはじめて可能であり、やがて同じ浮浪児でもその発生の社会的原因が崩壊と貧困化と廃頽のみであったものからより強く社会の発展的要素の反面を反映するものとなってゆくところに、非常な面白さがあるのである・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・ 斯様にして、権利を所有するが為に却って、魂を汚す彼女等は、同時に又その豊かな――そして其を反面から見れば非常に緊張した物質に地獄までも追いかけられて居るのでございます。 彼女等が、私共日本婦人には欠乏して居る経済思想に富んで居ると・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・集団として経済、政治、文化の問題をとりあつかい、より社会化されつつあった言説の反面に、同じテムポで成熟するひまのなかった新しい労働者階級の人間性――階級的人格形成の問題がのこされていることは、こんにちただ、文学の問題に止る現実ではない。・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・一九三五、六年以後新しい情熱で世界の感情の中に燃え立ったヒューマニズムへの要求は、明らかにこの要求の反面に人間性を重圧する社会事情の存在を意味していた。そしてヒューマニズムが真のヒューマニズムであるかぎり当然そのものとのたたかいが予想されて・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ ところがその反面、恋愛論などで婦人の精神と肉体とに非常に溌溂積極な表現を期待しているような評論家でも、そういう場面よりほかのところで女が活溌であることは何となく肯がいかねる感情をもったりして、自分の男としての情緒にそれをそのまま肯定し・・・ 宮本百合子 「職業のふしぎ」
・・・集団の行動を奨励している他の反面では、男や女の学生たちが自分たちで集って何かきめてやるということについて学校当局は神経を過敏に動かすのではないだろうか。 政治的成長というものは、いってみればそのような撞着的事象の本体を洞察して、その間か・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・四年にいたる時代を描こうとしている作者ロジェ・マルタン・デュ・ガールの人生態度の慎重さ、誠実さ、文学作品としての完成度のほんもの工合が、特に解毒剤のような清涼さで読者の感情にふれて来るというのは、その反面に何を語っているのであろうか。構成も・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
出典:青空文庫