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・・・それを、暫くしてから、漸く本間定五郎と云う小拾人が、御番所から下部屋へ来る途中で発見した。そこで、すぐに御徒目付へ知らせる。御徒目付からは、御徒組頭久下善兵衛、御徒目付土田半右衛門、菰田仁右衛門、などが駈けつける。――殿中では忽ち、蜂の巣を・・・
芥川竜之介
「忠義」
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・・・車が柳の番所の辻を曲がって見えなくなった時急に心細くなって、いっしょに帰ればよかったと思う。「さあおいで」とねえさんは引っ立てるように内へはいる。 頭のぐあいがいよいよ悪くなって心細い。母上といっしょに帰ればよかったと心で繰り返す。けむ・・・
寺田寅彦
「竜舌蘭」