・・・海市でこしらえたチェックの布地 この胴のところ、バンドの幅ほどくくれて居たの何ともたまらず「仕様がないじゃありませんか じゃ、この幅をひだによせて右左に一本ずつたたみましょう、そうすると、真中に合わせめの線があってなるか・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・白い衣にマッカのルビーのブローチをして、水色のバンドをしめた女は若い詩人の頬に頬をよせて小さいふるえた声でささやくように云いました。女「美くしい私の心の人、貴方は□□(と云う事を知っておいで」年若い人の頬にはほんのりと血がさしていつもよ・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・と思って見ると、なるほど、礬土の管が五本並んで、下の端だけ樺色に燃えている。しかしその火の光は煖炉の前の半畳敷程の床を黄いろに照しているだけである。それと室内の青白いような薄明りとは違うらしい。小川は兎に角電燈を附けようと思って、体を半分起・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・ 幾つかの台の上に、幾つかの礬土の塊がある。又外の台の上にはごつごつした大理石の塊もある。日光の下に種々の植物が華さくように、同時に幾つかの為事を始めて、かわるがわる気の向いたのに手を着ける習慣になっているので、幾つかの作品が後れたり先・・・ 森鴎外 「花子」
・・・ ナポレオンは答の代りに、いきなりネーのバンドの留金がチョッキの下から、きらきらと夕映に輝く程強く彼の肩を揺すって笑い出した。 ネーにはナポレオンのこの奇怪な哄笑の心理がわからなかった。ただ彼に揺すられながら、恐るべき占から逃がれた・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・九三年正月初めてニューヨークに現われた時には、ヒュネカアの語を藉れば She attracted a small band of admirable lunatics who saw her uncritically as a symbol・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫