・・・翌日、その運転手が通いつめていた新世界の「バー紅雀」の女給品子は豹一のものになった。むろん接吻はしたが、しかしそれだけに止まった。それ以上女の体に近づけない豹一を品子は狂わしくあわれんだが、しかし、豹一は遠くで鳴っている支那そば屋のチャルメ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・翌日、その運転手が通いつめていた新世界の「バー紅雀」の女給品子は豹一のものになった。むろん接吻はしたが、しかしそれだけに止まった。それ以上女の体に近づけない豹一を品子は狂わしくあわれんだが、しかし、豹一は遠くで鳴っている支那そば屋のチャルメ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・南でバーをやってた女が焼けだされて、上本町でしもた家を借りて、妹と二人女手だけで内緒の料理屋をやってるんですよ」「しもた屋で……? ふーん。お伴しましょう」 戎橋から市電に乗り、上本町六丁目で降りるともう黄昏れていた。寒々とした薄暗・・・ 織田作之助 「世相」
・・・南でバーをやってた女が焼けだされて、上本町でしもた家を借りて、妹と二人女手だけで内緒の料理屋をやってるんですよ」「しもた屋で……? ふーん。お伴しましょう」 戎橋から市電に乗り、上本町六丁目で降りるともう黄昏れていた。寒々とした薄暗・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ で彼等は、電車の停留場近くのバーへ入った。子供等には寿司をあてがい、彼は酒を飲んだ。酒のほかには、今の彼に元気を附けて呉れる何物もないような気がされた。彼は貪るように、また非常に尊いものかのように、一杯々々味いながら飲んだ。前の大きな・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ で彼等は、電車の停留場近くのバーへ入った。子供等には寿司をあてがい、彼は酒を飲んだ。酒のほかには、今の彼に元気を附けて呉れる何物もないような気がされた。彼は貪るように、また非常に尊いものかのように、一杯々々味いながら飲んだ。前の大きな・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ ご亭主の話に依ると、夫は昨夜あれから何処か知合いの家へ行って泊ったらしく、それから、けさ早く、あの綺麗な奥さんの営んでいる京橋のバーを襲って、朝からウイスキーを飲み、そうして、そのお店に働いている五人の女の子に、クリスマス・プレゼント・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ ご亭主の話に依ると、夫は昨夜あれから何処か知合いの家へ行って泊ったらしく、それから、けさ早く、あの綺麗な奥さんの営んでいる京橋のバーを襲って、朝からウイスキーを飲み、そうして、そのお店に働いている五人の女の子に、クリスマス・プレゼント・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・そういう爆音を街頭に放散しているものの随一はカフェやバーの正面の装飾美術であろう。ちょうどいろいろな商品のレッテルを郭大して家の正面へはり付けたという感じである。考えようではなかなか美しいと思われるのもあるがしかしいずれにしても実に瞬間的な・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・そういう爆音を街頭に放散しているものの随一はカフェやバーの正面の装飾美術であろう。ちょうどいろいろな商品のレッテルを郭大して家の正面へはり付けたという感じである。考えようではなかなか美しいと思われるのもあるがしかしいずれにしても実に瞬間的な・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
出典:青空文庫