・・・みな寝しずまったころ、三十歳くらいのヘロインは、ランタアンさげて腐りかけた廊下の板をぱたぱた歩きまわるのであるが、私は、いまに、また、どこか思わざる重い扉が、ばたあん、と一つ、とてつもない大きい音をたてて閉じるのではなかろうかと、ひやひやし・・・ 太宰治 「音に就いて」
・・・ 雪は手をぴしゃと拍って、そう言ってから、私の着物の袖をつかまえ、ひきずるようにしてぱたぱた歩きだした。「なんだ、どうしたんだ。」 私もよろよろしながら、それでも雪について歩いた。「いいことがあるの。でも恥かしいわ。あのね、・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
・・・ 空が旗のようにぱたぱた光って飜り、火花がパチパチパチッと燃えました。嘉助はとうとう草の中に倒れてねむってしまいました。 * そんなことはみんなどこかの遠いできごとのようでした。 もう又三郎がすぐ目の前に足を投・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・』と云うと子供の助手はまるで口を尖らせて、『だって向うの三角旗や何かぱたぱた云ってます。』というんだ。博士は笑って相手にしないで壇を下りて行くねえ、子供の助手は少し悄気ながら手を拱いてあとから恭々しくついて行く。 僕はそのとき二・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・尤も私の席はその風の通り路からすこし外れていましたから格別涼しかったわけでもありませんでしたが、それでも向うの書類やテーブルかけが、ぱたぱた云っているのを見るのは実際愉快なことでした。それでもそんな仕事のあいまに、ふっとファゼーロのことを思・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫