・・・ところがアラムハラドの斯う云ってしまうかしまわないうちにもう林がぱちぱち鳴りはじめました。それも手をひろげ顔をそらに向けてほんとうにそれが雨かどうか見ようとしても雨のつぶは見えませんでした。 ただ林の濶い木の葉がぱちぱち鳴っている〔以下・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・ ところが画かきはもうすっかりよろこんで、手をぱちぱち叩いて、それからはねあがって言いました。「おい君、行こう。林へ行こう。おれは柏の木大王のお客さまになって来ているんだ。おもしろいものを見せてやるぞ。」 画かきはにわかにまじめ・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・それからその次に面白いのは北極光だよ。ぱちぱち鳴るんだ、ほんとうに鳴るんだよ。紫だの緑だのずいぶん奇麗な見世物だよ、僕らはその下で手をつなぎ合ってぐるぐるまわったり歌ったりする。 そのうちとうとう又帰るようになるんだ。今度は海の上を渡っ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・そしてしばらくそらを向いて、腹をこすってからちょっと眼をぱちぱちさせて「小しゃくなことを言うまいぞ。」とふざけたように歌いながら又糸をはきました。 網は三まわり大きくなって、もう立派な蜘蛛の巣です。蜘蛛はすっかり安心して、又葉のかげ・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
・・・ そして片っぱしからぱちぱち杉の下枝を払いはじめました。ところがただ九尺の杉ですから虔十は少しからだをまげて杉の木の下にくぐらなければなりませんでした。 夕方になったときはどの木も上の方の枝をただ三四本ぐらいずつ残してあとはすっかり・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・ それからシグナルは、ううううと言いながら眼をぱちぱちさせて、しばらくの間だまっていました。 シグナレスもおとなしく、シグナルののどのなおるのを待っていました。電信柱どもはブンブンゴンゴンと鳴り、風はひゅうひゅうとやりました。 ・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・猫はさあこれはもう一生一代の失敗をしたという風にあわてだして眼や額からぱちぱち火花を出しました。するとこんどは口のひげからも鼻からも出ましたから猫はくすぐったがってしばらくくしゃみをするような顔をしてそれからまたさあこうしてはいられないぞと・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ するとじいさんの眼だまから、虎のように青い火花がぱちぱちっとでたとおもうと、恭一はからだがびりりっとしてあぶなくうしろへ倒れそうになりました。「ははあ、だいぶひびいたね、これでごく弱いほうだよ。わしとも少し強く握手すればまあ黒焦げ・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・と申しますと、やまねこはまだなにか言いたそうに、しばらくひげをひねって、眼をぱちぱちさせていましたが、とうとう決心したらしく言い出しました。「それから、はがきの文句ですが、これからは、用事これありに付き、明日出頭すべしと書いてどうでしょ・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
・・・ 栖方は眼をぱちぱちさせ、云うことを聞かなくなった自分の頭を撫でながら、不思議そうに云った。「それはお芽出たいことだったな。用心をしないと、気狂いになるかもしれないね。」 梶はそう云う自分が栖方を狂人と思って話しているのかどうか・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫