・・・ 九月二日 次の日もよく晴れて谷川の波はちらちらひかりました。 一郎と五年生の耕一とは、丁度午后二時に授業がすみましたので、いつものように教室の掃除をして、それから二人一緒に学校の門を出ましたが、その時二人の頭の中は・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・(ああ、マジエル様、どうか憎マジエルの星が、ちょうど来ているあたりの青ぞらから、青いひかりがうらうらと湧きました。 美しくまっ黒な砲艦の烏は、そのあいだ中、みんなといっしょに、不動の姿勢をとって列びながら、始終きらきらきらきら涙をこぼし・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・曹長「マルトン原のかなしみのなかひかりはつちにうずもれぬああみめぐみのあめを下しわれらがつみをゆるしたまえ。」合唱「ああ、みめぐみの雨をくだしわれらがつみをゆるしたまえ。」(特務曹長ピスト・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・お空のちちは、つめたい雨の ザァザザザ、かしわのしずくトンテントン、まっしろきりのポッシャントン。お空。お空。お空のひかり、おてんとさまは、カンカンカン、月のあかりは、ツンツンツン、ほしのひかりの、ピッカリコ。」・・・ 宮沢賢治 「気のいい火山弾」
・・・森の木の間からは、星がちらちら何か言うようにひかり、鳥はたびたびおどろいたように暗の中を飛びましたけれども、どこからも人の声はしませんでした。とうとう二人はぼんやり家へ帰って中へはいりますと、まるで死んだように眠ってしまいました。 ブド・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ 太陽が、ちょうど一本のはんのきの頂にかかっていましたので、その梢はあやしく青くひかり、まるで鹿の群を見おろしてじっと立っている青いいきもののようにおもわれました。すすきの穂も、一本ずつ銀いろにかがやき、鹿の毛並がことにその日はりっぱで・・・ 宮沢賢治 「鹿踊りのはじまり」
・・・雪童子がはねあがるようにして叱りましたら、いままで雪にくっきり落ちていた雪童子の影法師は、ぎらっと白いひかりに変り、狼どもは耳をたてて一さんに戻ってきました。「アンドロメダ、 あぜみの花がもう咲くぞ、 おまえのラムプのアルコホル・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
・・・すると外から二十日過ぎの月のひかりが室のなかへ半分ほどはいってきました。「何をひけと。」「トロメライ、ロマチックシューマン作曲。」猫は口を拭いて済まして云いました。「そうか。トロメライというのはこういうのか。」 セロ弾きは何・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・はねのうらは桃いろにぎらぎらひかり、まるで鳥の王さまとでもいうふう、タネリの胸は、まるで、酒でいっぱいのようになりました。タネリは、いま噛んだばかりの藤蔓を、勢よく草に吐いて高く叫びました。「おまえは鴇という鳥かい。」 鳥は、あたり・・・ 宮沢賢治 「タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった」
・・・有平糖のその洋傘はいよいよひかり洋傘直しのその顔はいよいよ熱って笑っています。(洋傘直し、洋傘直し、なぜ農園の入口でおまえはきくっと曲るのか。農園の中などにおまえの仕事 洋傘直しは農園の中へ入ります。しめった五月の黒つちにチュウリッ・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
出典:青空文庫