・・・撫子 それはね、南京流の秘伝なの。ほほほ。おその、蓮葉に裏口より入る。駄菓子屋の娘。その 奥様。撫子 おや、おそのさん。その あの、奥様。お客様の御馳走だって、先刻、お台所で、魚のお料理をなさるのに、小刀でこしら・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・のが本式なのであるが、手紙でも差しつかえ無い。ただ、その御礼の手紙には、必ず当日は出席する、と、その必ずという文字を忘れてはいけないのである。その必ずという文字は、利休の「客之次第」の秘伝にさえなっているのである。私は先生に、速達郵便でもっ・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・由来、剣道、能楽などの秘伝は、最後は直感、綜合的なこの勘で、悟入し得る手がかりを様々の抽象的な云いまわしや象徴的な比喩で書きあらわしたものと思える。ところで、剣道の流派というものも、能楽も昔は一子相伝的で、特に刀鍛冶など、急所である湯加減を・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
出典:青空文庫