・・・は茶器である、然るにも係らず、徒に茶器を骨董的に弄ぶものはあっても、真に茶を楽む人の少ないは実に残念でならぬ、上流社会腐敗の声は、何時になったらば消えるであろうか、金銭を弄び下等の淫楽に耽るの外、被服頭髪の流行等極めて浅薄なる娯楽に目も・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・その実践への機を含んでしかも、直接に発動せず、静かに、謙遜に、しかも勇猛に徹底して、その思想の統一をとげ、不落の根拠を築きあげようと企図するものであり、そこには抑制せられたる実行意志が黙せる雷の如くに被覆されているのである。 倫理学を迂・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・未知と被覆とを無作法にかなぐり捨てて、わざと人生の醜悪を暴露しようとする者には、青春も恋愛も顔をそむけ去るのは当然なことである。 三 恋愛の本質は何か 恋愛とは何かという問題は昔から種々なる立場からの種々な解釈があっ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・「糧秣や被服を運ぶんだ。」「糧秣や被服を運ぶのに、なぜそんなに沢山橇がいるんかね。」 イワンが云った。「それゃいるとも。――兵たいはみんな一人一人服も着るし、飯も食うしさ……。」 商人は、ペーターが持っている二台の橇を聯隊の・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・支那兵は生前、金にも食物にも被服にもめぐまれなかった有様を、栄養不良の皮膚と、ちぎれた、ボロボロの中山服に残して横たわっていた。それを見ると和田は何故とも知れず、ぞくッとした。 一度退却した馬占山の黒龍江軍は、再び逆襲を試みるために、弾・・・ 黒島伝治 「チチハルまで」
・・・二年兵の食器洗い、練兵、被服の修理、学科、等々、あとからあとへいろ/\なことが追っかけて来るのでうんざりする。腹がへる。 軍隊特有な新しい言葉を覚えた。からさせ、──云わなくても分っているというような意。まんさす、──二年兵・・・ 黒島伝治 「入営前後」
・・・ 彼は、二個の兵器、二人分の被服を失った理由書をかゝねばならぬことを考えていた。 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・ 中でも一ばん悲さんだったのは、本所の被服しょうあとへにげこんだ人たちです。そこは、ともかく何万坪という広い構内ですから、本所かいわいの人たちは、だれもそこなら安全だと思って、どんどん荷物をはこびこみました。夜になってからは、いよいよ多・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・この地鳴りの音は考え方によってはやはりジャーンとも形容されうる種類の雑音であるし、またその地盤の性質、地表の形状や被覆物の種類によってはいっそうジャーンと聞こえやすくなるであろうと思われうるたちのものである。そして明らかに一方から一方へ「過・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・昨年九月一日被服廠跡で起った火焔の渦巻を支配したと同じ方則がここにも支配しているのだろうと思って、一生懸命に眺めていたが、この模糊とした煙の中から、そう手取早く要領を得た方則を読取る事は容易な仕事ではないのであった。 五回に一回くらいは・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫