・・・池の周囲はおどろおどろと蘆の葉が大童で、真中所、河童の皿にぴちゃぴちゃと水を溜めて、其処を、干潟に取り残された小魚の泳ぐのが不断であるから、村の小児が袖を結って水悪戯に掻き廻す。……やどかりも、うようよいる。が、真夏などは暫時の汐の絶間にも・・・ 泉鏡花 「海の使者」
・・・もう一つの犬も口をつけてぴちゃぴちゃのみました。病犬は水を飲んだために、少しは元気がついたように見えました。肉屋は、骨と皮とばかりの、そのからだをなでてやり、「じゃァ、よくおやすみ。あすまた見に来てやるからな。おお/\、かわいそうに。―・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・いちど笑うと、なかなか、真面目な顔に帰れないもので、ねえ、てのひらを二つならべて一掬の水を貯え、その掌中の小池には、たくさんのおたまじゃくしが、ぴちゃぴちゃ泳いでいて、どうにも、くすぐったく、仁王立ちのまま、その感触にまいっている、そんな工・・・ 太宰治 「思案の敗北」
・・・其から大将は昼になると蒲焼を取り寄せて、御承知の通りぴちゃぴちゃと音をさせて食う。それも相談も無く自分で勝手に命じて勝手に食う。まだ他の御馳走も取寄せて食ったようであったが、僕は蒲焼の事を一番よく覚えて居る。それから東京へ帰る時分に、君払っ・・・ 夏目漱石 「正岡子規」
・・・そうして、冷飯草履の音がぴちゃぴちゃする。それが拝殿の前でやむと、母はまず鈴を鳴らしておいて、すぐにしゃがんで柏手を打つ。たいていはこの時梟が急に鳴かなくなる。それから母は一心不乱に夫の無事を祈る。母の考えでは、夫が侍であるから、弓矢の神の・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・素あしにゴム靴でぴちゃぴちゃ水をわたる。これはよっぽどいいことになっている。前にも一ぺんどこかでこんなことがあった。去年の秋だ。腐植質の野原のたまり水だったかもしれない。向うに黒いみちがある。崖の茂みにはいって行く。これが羽山を越えて台・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・素足で街道のぬかるみを駆けるので、ぴちゃぴちゃ音がした。 その時ツァウォツキイは台所で使う刃物を出した。そしてフランチェンスウェヒを横切って、ウルガルン王国の官有鉄道の発起点になっている堤の所へ出掛けた。 ここはいつもリンツマンの檀・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫