・・・それに気のついたお金は眉をぴりっとさせて、「又、隣りに入ってる。 何ぼ何だって、あんまりだらしがなさすぎる、 ひまさえあればべたくたしてさ――と云ってプッつり話をやめてしまった。 良吉は只、ニヤニヤして居る。・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・がジイッとして、うすい原稿紙を持って居る細やかな指もぴりっともしない。 こんなに静かで居て火花を散らして働いて居る頭の裡を想うと空おそろしい様な気もした。 ややしばらくたって肇がそれをテーブルの上に置いた時思いがけなく自分を見て居た・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・どこか底の方に、ぴりっとした冬の分子が潜んでいて、夕日が沈み掛かって、かっと照るような、悲哀を帯びて爽快な処がある。まあ、年増の美人のようなものだね。こんな日にもぐらもちのようになって、内に引っ込んで、本を読んでいるのは、世界は広いが、先ず・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫