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・・・けれどもまあ不入りだろうと考えながら控席へ入って休息していると、いつの間にやらこんなに人が集って来た。この講堂にかくまでつめかけられた人数の景況から推すと堺と云う所はけっして吝な所ではない、偉い所に違いない。市中があれほどヒッソリしているに・・・
夏目漱石
「中味と形式」
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・・・二人共に青絹を敷いた様な海の面を遙かの下に眺めている。二人共に斑入りの大理石の欄干に身を靠せて、二人共に足を前に投げ出している。二人の頭の上から欄干を斜めに林檎の枝が花の蓋をさしかける。花が散ると、あるときはクララの髪の毛にとまり、ある時は・・・
夏目漱石
「幻影の盾」