・・・倫理学はこの道徳盲を克服して、あらゆる人と時と処とにおいて不易なる道徳的真理そのもの、ジットリヒカイトを見出すことを任務とする。 かかる普遍的に妥当なる道徳的真理が存在するか否かがすでに根本的な問題である。たとえば唯物史観的な倫理学は一・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・思っても見よ太古の動物が太古そのままの姿で、いまもなお悠然とこの日本の谷川に棲息し繁殖し、また静かにものを思いつつある様は、これぞまさしく神ながら、万古不易の豊葦原瑞穂国、かの高志の八岐の遠呂智、または稲羽の兎の皮を剥ぎし和邇なるもの、すべ・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・ 四 俳句がいわゆる「不易」なものの一断面「流行」の一つの相を表現したものである以上、人の句を鑑賞する場合における評価が作者と鑑賞者との郷土や年齢やの函数で与えられるのは当然であろう。これは何も俳句に限ったことで・・・ 寺田寅彦 「思い出草」
・・・それはもちろん風雅の心をもって臨んだ七情万景であり、乾坤の変であるが、しかもそれは不易にして流行のただ中を得たものであり、虚実の境に出入し逍遙するものであろうとするのが蕉門正風のねらいどころである。 不易流行や虚実の弁については古往今来・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・は日本人には直ちにまた人生の一断面であって、それはまた一方で不易であると同時に、また一方では流行の諸相でもある。「実」であると同時に「虚」である。「春雨や蜂の巣つとう屋ねの漏り」を例にとってみよう。これは表面上は純粋な客観的事象の記述に過ぎ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・桜さく三味線の国は同じ専制国でありながら支那や土耳古のように金と力がない故万代不易の宏大なる建築も出来ず、荒凉たる沙漠や原野がないために、孔子、釈迦、基督などの考え出したような宗教も哲学もなく、また同じ暖い海はありながらどういう訳か希臘のよ・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・古法古言を盲信して万世不易の天道と認め、却て造化の原則を知らず時勢の変遷を知らざるは、古学者流の通弊にこそあれ。人智の進歩は盲信を許さゞるなり。古人が女子を床の下に臥さしめて男天女地の差別を示したるは古人の発意にして、其意は以て人間万世の法・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・万古不易の金言、思わざるべからず。 さてまた、子を教うるの道は、学問手習はもちろんなれども、習うより慣るるの教、大なるものなれば、父母の行状正しからざるべからず。口に正理を唱るも、身の行い鄙劣なれば、その子は父母の言語を教とせずしてその・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・「こころ」「不易流行」「さび・しおり・ほそみ」等は精密を極めた考証とともにしらべられて、それぞれの見解はその道の人々にとっての一大事とされている。私たちはそういう或る意味では煩瑣な芭蕉学から離れ、きょうのこの心のままで彼の芸術にふれてゆくの・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫