・・・あれは未だ纏った考えと云うより、一つの暗示にすぎないから、女性中心思想によって敷衍された結論に猶考える余地があるとしても、その核心である女性のデリケートな自尊心については味うべきものであると思う。所謂進歩し、懐疑なく性生活を支配している新女・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・個性の上に温かいはぐくみを持たない今の教育は、綜合的な人間常識を授けるにとどまって、その人の持っている質の善悪にまで敷衍されていないからです。その点から一面、人間中心芸術中心の天才教育があってもよいと思います。 芸術家としての素質に就い・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・私共が箇性的差異として、各自の国民性を持ちながらも、世界人として生活し始めた今日、世界各処に発生し、発達した種々な生活意識、様式を、悉く、人の価値、人の理想と云う眼界にまで敷衍して考えたいと思います。 故に、或る観念に刺衝せられた場合の・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・そのような批評家は同じ考えを作品にまで敷衍して、バルザックの描く主だった人物を見よ、ゴリオにしろ、ベットにしろ、皆その人生を慾望の偏執によって貫く異常人ではないかと強調するのである。 猶我々の興味をひくことは、同時代の作家たちの間におい・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
『文芸春秋』四月号にのった文芸時評に対するあなたの御感想を拝見しました。別な作者の小説「希望館」についての感想を敷衍しつつ、嘗て或る時期に、実際運動をしていた人々が文学の仕事に移って来て今日示している或る種の文学活動に向って・・・ 宮本百合子 「不必要な誠実論」
・・・あとには男子に、短い運命を持った棟蔵と謙助との二人、女子に、秋元家の用人の倅田中鉄之助に嫁して不縁になり、ついで塩谷の媒介で、肥前国島原産の志士中村貞太郎、仮名北有馬太郎に嫁した須磨子と、病身な四女歌子との二人が残った。須磨子は後の夫に獄中・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫