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・・・いきなり、けらけらと笑ったのは大柄な女の、くずれた円髷の大年増、尻尾と下腹は何を巻いてかくしたか、縞小紋の糸が透いて、膝へ紅裏のにじんだ小袖を、ほとんど素膚に着たのが、馬ふんの燃える夜の陽炎、ふかふかと湯気の立つ、雁もどきと、蒟蒻の煮込のお・・・
泉鏡花
「開扉一妖帖」
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・・・淡水でからだを洗い、蒲の毛を敷きつめて、その中にふかふかと埋って寝た。これは、安楽のはじまりであろう。最も日常茶飯事的なるもの「おれは男性である。」この発見。かれは家人の「女性。」に気づいてから、はじめて、かれの「男性。」に・・・
太宰治
「もの思う葦」