・・・ ここへ例の女の肩に手弱やかな片手を掛け、悩ましい体を、少し倚懸り、下に浴衣、上へ繻子の襟の掛った、縞物の、白粉垢に冷たそうなのを襲ねて、寝衣のままの姿であります、幅狭の巻附帯、髪は櫛巻にしておりますが、さまで結ばれても見えませぬのは、・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・シルエットの世界には遠い遠い過去の人生の幻影といったようなものの笹べりが付帯している。ここから実物の写真では表現し難い詩が生まれ出る。また近ごろの漫画的映画の喜ばれるゆえんは、夢幻的な雰囲気の中に有りうべからざる人間の夢を実現するという点に・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・これは、映画がまだ芸術として若い芸術であるという事が一つ、それから映画の成立にいろいろなテクニカルな要項が付帯しているために、それに関する知識の程度によって批評家の種類と段階の差別が多様になるという事がもう一つの原因になるのではないかという・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・この趣味に附帯して生ずる不純な趣味としては、かような珍品をどこからか掘出して来て人に誇るという傾向も見受けられる。この点において骨董趣味はまたいわゆる蒐集趣味と共有な点がある。マッチの貼紙や切手を集めあるいはボタンを集め、達磨を集め、甚だし・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・それに付帯した親しみもありなつかしみもありうるであろう。しかし異国的なゴムの葉のにおいばかりは、少なくも当時の自分の連想の世界を超越した不思議な魔界の悪臭であった。この悪臭によって自分はこの現世から突きはなされてただ一人未知の不安な世界に追・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・これには不可抗的な自然の威力に対する本能的な畏怖が結合されている。これに附帯しては、地震の破壊作用の結果として生ずる災害の直接あるいは間接な見聞によって得らるる雑多な非系統的な知識と、それに関する各自の利害の念慮や、社会的あるいは道徳的批判・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・実際丙午の女に関する迷信などは全くいわれのないことと思われるし、辰年には火事や暴風が多いというようなこともなんら科学的の根拠のないことであると思われるが、しかしこれらは干支の算年法に付帯して生じた迷信であって、そういう第二義的な弊が伴なうか・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・あらゆる付帯的気象条件がちがい従って人間の感受性に対するその作用は全然別物ではないかと思われるのである。 これに限らず、人間と自然を引っくるめた有機体における自然と人間の交渉はやはり有機的であるから、たとえ科学的気象学的に同一と見られる・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・もちろんこれらの人々は一方ではそれぞれの本来の職務に従事しているが、その職務時間の若干をさいて公衆のためにこれらの記事を草するという事は少しも不都合とは思われないのみならず、むしろそういう事は職務に付帯した義務の一部分と考えられない事はない・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・それに付帯してもう一つ音楽的な律動的要素が融合してそうしていわゆる詩歌となっているのである。しかるに連句では一つ一つの短句長句はそれぞれにはまとまった表象をもっているが、ある句とその付け句との間の関係はもはや普通の詩歌の相次ぐ二句の間の関係・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫