・・・八月二十六日、府中刑務所で、今野、岡村弁護人が竹内被告に面会したとき、竹内被告との間に左のような問答が交わされた。「わたしは先日、拘留開示の前におあいしたとき、ぜんぜんこの事件には関係ないといいましたが、それはウソで、じつは私が電車を走・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・十月十〔四〕日、宮本が網走刑務所から解放されて東京へ帰ってきた。府中刑務所の予防拘禁から解放された徳田球一その他の同志たちの間に活動が開始された。『アカハタ』第一号がパンフレットの形で発刊された。日本にはじめて共産党の機関紙が合法的に出・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・十月十日に府中刑務所から解放された重吉の同志たちが、すぐ郊外に集団生活をはじめていた。そこへ重吉につれられて行って、ひろ子は、昔会ったことのあった婦人活動家の一人にめぐり会った。そのひとから獄中で死んだ幾人かの人々の話をきいた。宮城刑務所に・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・これは家康がこの府中の城に住むことにきめて沙汰をしたのが今年の正月二十五日で、城はまだ普請中であるので、朝鮮の使の饗応を本多が邸ですることに言いつけておいたからである。「一応とりただしてみることにいたしましょうか」と、本多はやはり気色を・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・ところへ外からおとずれたのは居残っていた懶惰者、不忠者の下男だ。「誰やらん見知らぬ武士が、ただ一人従者をもつれず、この家に申すことあるとて来ておじゃる。いかに呼び入れ候うか」「武士とや。打揃は」「道服に一腰ざし。むくつけい暴男で・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・しかし聖勅に違背するような不忠な政治家を誰が作ったであろうか。たといそういう政治家が官僚の中から出たとしても、すでに議会が開けた以上は、代議士さえ聖旨にかなうような人であれば、そういう違勅の政治家を駆逐することができたはずである。しかるに同・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫