・・・されば到底この繁多なる事物を教えんとするもでき難きことなれば、果して世に学校なるものは不用なるやというに決して然らず。 もとより直接に事物を教えんとするもでき難きことなれども、その事にあたり物に接して狼狽せず、よく事物の理を究めてこれに・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・「拙者に少しく不用の金子がある。それに遠国に参る所じゃ。預かっておいてもらえまいか。もっとも拙者も数々敵を持つ身じゃ。万一途中相果てたなれば、金子はそのままそちに遣わす。どうじゃ」「へい。それはきっとお預かりいたしまするでございます・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・ 長い歴史の間、過去の日本人が、上から抑えつけられてばかりいた結果、習慣となった卑屈な愛嬌笑いは、男にも女にも、不用です。 私たちは、そういう日本人であることを、自分に拒絶しなければならないと思います。 ところで、躾の根本を・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・あとから隊宛に品物を送ることが出来れば、もうしめたもので、それが出来る時は私がやっきになって持たせてやりたいとあせったものも不用となって目出たし目出たしのわけです。忍耐強い子だから根が切れてどうこうということはありませんが、人間の貴重で精緻・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・どうかそのおつもりで、不用の袷類を下げてお置き下さい。 さむくなりましたが、今年は去年より概して暖いのではないかしら。きょうなどなかなかおだやかな日です。 盲腸など大変きらいです。少しひまなとき、そして健康状態のいいとき、切ってとっ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・お花といわれると私たちは仏さんのお花という連想があったり、お花のけいこにつながったり、花そのものには不用な形式的なものをつけ加えられる。子供のための文学の作者のよい感覚は、子供の感情再現の内容をつくる、そういう用語の上にも敏感、率直、清潔で・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・故に、作家は作家であれば足りるのであって特別な現実を観る眼、世界観等というものは不用である、作品は作品である限り進歩的な役割を自ら果すものであるという風な論がリアリズムについてなされた。このことに連関して、バルザックは王党派であったにも拘ら・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・バルザックに還れと叫ぶ人々が、バルザックへ戻る前に既にそれをかみこなす自分らの歯を我から不要のものとして抜きすて去っているとしたら、そもそも何の規準によってこの一箇の巨大な古典を摂取し得るであろう。畢竟バルザックは当時一風潮としてきざしはじ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・に就ても、上述のような紹介の角度によって、さながら新たなヒューマニズムの内容は、非人間的暴力に反対するという一般傾向において平面的に無差別につらなっているので、その推進力としての指導方向を不用としているかのようにうけとられた。従来のプロレタ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 彼は忠実に彼女を扶養し、朝から晩まで働いて、自分の愛するものの為に努力致します。が、妻の方は、只自分が一生一つ顔ばかり見て居なければならないと云う厭怠から、他に情人を作ります。もう彼女にとって、忠実なる働き手の良人は何の魅力も持って居・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫