・・・ 武者修業 わたしは従来武者修業とは四方の剣客と手合せをし、武技を磨くものだと思っていた。が、今になって見ると、実は己ほど強いものの余り天下にいないことを発見する為にするものだった。――宮本武蔵伝読後。 ユウ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ただの学者、政治家と思われている人でも、いざという時には、非凡な武技を発揮した。小才だけでは、どうにもならぬ。武術の達人には落ちつきがある。この落ちつきがなければ、男子はどんな仕事もやり了せる事が出来ない。伊藤博文だって、ただの才子じゃない・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・枕もとを見ると、舞妓の姿をかいた極彩色の二枚折が隅に立ててあって、小さい床に春琴か何かが懸かっていた。次ぎの間にも違棚があって、そこにも小さい軸がかかっていた。青蚊帳に微風がそよいで、今日も暑そうであったが、ここは山の庵にでもいるような気分・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ 一菊と云う舞妓は、舞いながら、学生が何か合図するのだろう、笑いを押えようとし、典型的に舞妓らしい口元を賢こげに歪めた。 夥しい群集に混ってそこを出、買物してから花見小路へ来かかると、夜の通りに一盛りすんだ後の静けさが満ちていた。大・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・ 祇園の舞妓はうっかり貴方に見せられないほど美くしい可愛いもんです。 自分で書いたらしい首人形のついた絵葉書に京子からこんな便があった。 貴方にうっかり見せられないほど―― その文句を見て千世子は一人笑いを長い事・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・大家連が依然として芸者、舞妓、花、蛙などにとじこもっているに対し、題材として新しい方向を求め、例えば発電所・橋・市街鳥瞰図風の素材を扱った新人もあるが、結局それ等の題材は風景として理解されているに止っているし、日本画としての技術上からも、そ・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
出典:青空文庫