・・・女の数はごく少く、それも髪を乱し、裾をからげ、年齢に拘らず平時の嬌態などはさらりと忘れた真剣さである。武装を調えた第三十五連隊の歩兵、大きな電線の束と道具袋を肩にかけた工夫の大群。乗客がいつもの数十倍立てこんだ上、皆な気が立った者ばかりだか・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・ 反動青年団がこんなにも大勢、こんなにも太いステッキで武装して広場を囲んでいる! かんじんの労働者はどこだ? グイグイ体でステッキとレイン・コートの間をおしわけ、その中へ入ってみたら、ホンの数百人、赤旗を中心に憂鬱な、カンシャクを喰・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
・・・心敬は猿楽の世阿弥を無双不思議とほめているが、我々から見ても無双不思議である。能楽が今でも日本文化の一つの代表的な産物として世界に提供し得られるものであるとすれば、その内の少なからぬ部分の創作者である世阿弥は、世界的な作家として認められなく・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫