・・・ここはちょっと一つの独立な区画になっている、戦争前には哲学、美術、科学とそれぞれの部門にわたって系統的に分類して陳列されていたのが、このごろではもう目ぼしいような物は大概売り切れてしまって、いろいろな部門のものが雑然と入り乱れている。ドイツ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・しかしルクレチウスなしにいかなる科学の部門でも未知の領域に一歩も踏み出すことは困難であろう。 今かりに現代科学者が科学者として持つべき要素として三つのものを抽出する。一つはルクレチウス的直観能力の要素であってこれをLと名づける。次は数理・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・ しかるに各課担任の教師はその学問の専門家であるがため、専門以外の部門に無識にして無頓着なるがため、自己研究の題目と他人教授の課業との権衡を見るの明なきがため、往々わが範囲以外に飛び超えて、わが学問の有効を、他の領域内に侵入してまでも主・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・一国の歴史は人間の歴史で、人間の歴史はあらゆる能力の活動を含んでいるのだから政治に軍事に宗教に経済に各方面にわたって一望したらどういう頼母しい回顧が出来ないとも限るまいが、とくに余に密接の関係ある部門、即ち文学だけでいうと、殆んど過去から得・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・こんな機会でなければ顔を合わすことはありませんが、これでも私は工業の部門に属する専門家になろうとした事がありました。私は建築家になろうと思ったのです。何故っていうような問題ではない。けれどもついでだから話します。 まだ子供のとき、財産が・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・そして先頭に進んで行き、敵の守備兵が固めている、玄武門に近づいて行った。彼の受けた命令は、その玄武門に火薬を装置し、爆発の点火をすることだった。だが彼の作業を終った時に、重吉の勇気は百倍した。彼は大胆不敵になり、無謀にもただ一人、門を乗り越・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ 我封建の時代、百万石の大藩に隣して一万石の大名あるも、大名はすなわち大名にして毫も譲るところなかりしも、畢竟瘠我慢の然らしむるところにして、また事柄は異なれども、天下の政権武門に帰し、帝室は有れども無きがごとくなりしこと何百年、この時・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・次ぎに小熊さんに会ったのは一九三一年ごろで、小熊秀雄さんを、小説の部門に私を包括して、その文学の歴史の波が再び互を近づけたのであった。 諷刺詩人としての小熊秀雄氏が、その時代には成長の道程にあった。童話にあらわれていた味は、生活的な成長・・・ 宮本百合子 「旭川から」
・・・臨時工として種々の官営、民営工場に雇われ、工業部門に参加するようになって来た女の数はおびただしいものがあろう。市内のある工廠で一挙に数百人の女工を求めて来たので、市の紹介所は、小紡績工場の操短で帰休している娘たちを八王子辺から集めて、やっと・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・他の生産部門にたいして、とくに社会を皮相からみたときには、いつもそれだけが支配力をもつような政治・経済の力に抗して、文学の独特な価値を肯かせようとして、ほかの仕事とは違う、違うと、ますます手足の萎えた状態に自身を追いこんだ。勤労階級と、文学・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
出典:青空文庫