・・・坪内君が世間から尊敬せらるゝのは早稲田大学の元老、文学博士であるからで、舞踊劇の作者たり文芸協会の会長たるは何等の重きをなしていないからである。 社会をして文人の権威を認めしめよ。文人は社会に対して宣戦せよ。"Murmur&q・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・しんなりした撫肩の、小柄なきゃしゃな身体を斜にひねるようにして、舞踊か何かででも鍛えあげたようなキリリとした恰好して、だんだん強く強く揺り動かして行った。おお何というみごとさ! ギイギイと鎖の軋る音してさながら大濤の揺れるように揺れているそ・・・ 葛西善蔵 「遊動円木」
・・・沢の奥の行きづまりには崩れかかったプールの廃墟に水馬がニンプの舞踊を踊っている。どこか泉鏡花の小説を想わせるような雰囲気を感じる。 翌日自動車で鬼押出の溶岩流を見物に出かけた。千ヶ滝から峰の茶屋への九十九折の坂道の両脇の崖を見ると、上か・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・ 焔の幕の向うに大きな舞踊の場が拡がっている。華やかな明るい楽の音につれて胡蝶のような人の群が動いている。 焔が暗くなる。 木深い庭園の噴水の側に薔薇の咲き乱れたパアゴラがある。その蔭に男女の姿が見える。どこかで夜の鶯の声が聞え・・・ 寺田寅彦 「ある幻想曲の序」
・・・音楽舞踊はいかなる野蛮民族の間にも現存する。建築や演劇でも、いずれもかなりな灰色の昔にまでその発達の径路をさかのぼる事ができるであろう。マグダレニアンの壁画とシャバンヌの壁画の間の距離はいかに大きくとも、それはただ一筋の道を長くたどって来た・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ただ職工の釣りをたれているところと、その次の野外舞踊の場面だけが少ししっくりしかねるように思われた。これだけ切ってしまってもおそらくこの映画価値は決して損失を受けないばかりかむしろいっそう渾然としたものになりはしないかという気がするのである・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 妖精の舞踊や、夢中の幻影は自分にはむしろないほうがよいと思われた。 この映画も見る人々でみんなちがった見方をするようである。自分のようなものにはこの劇中でいちばんかわいそうなは干物になった心臓の持ち主すなわちにんじんのおかあさんで・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・と同じく芸人フレッド・アステーアとジンジャー・ロジャースとの舞踊を主題とする音楽的喜劇である。はなはだたわいのないものである。これを見ていたとき、私のすぐ右側の席にいた四十男がずっと居眠りをつづけて、なんべんとなくその汗臭い頭を私の右肩にぶ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・胎児の蝋細工模型でも、手術中に脈搏が絶えたりするのでも、少なくも感じの上では「死の舞踊」と同じ感じのもののように思われる。終局の場面でも、人生の航路に波が高くて、舳部に砕ける潮の飛沫の中にすべての未来がフェードアウトする。伴奏音楽も唱歌も、・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・スクリーンの面で船や橋や起重機が空中に舞踊し旋回する。その前に二人の有頂天になってはしゃいでいる姿が映る。そうしたあとで、テナシティのデッキの上から「あしたは出帆だ」とどなるのをきっかけに、画面の情調が大きな角度でぐいと転回してわき上がるよ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫