・・・ほんとうのことは自分などにはわからないが、ただ現在での自分の素人考えによると、最初の緊張状態の質的の差別によって泣くと笑うとの分岐点が決定されるように思われる。 きわめて大ざっぱに考えてみると、当初の緊張が主として理知的でありあるいは道・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・の分布の問題、リヒテンベルク放電像の不思議な形態の問題、落下する液滴の分裂の問題、金米糖の角の発生の問題、金属単晶のすべり面の発生に関する問題また少しちがった方面ではたとえば河流の分岐の様式や、樹木の枝の配布や、アサリ貝の縞模様の発生などの・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・後に俳諧から分岐した雑俳の枝頭には川柳が芽を吹いた。 連歌から俳諧への流路には幾多の複雑な曲折があったようである。優雅と滑稽、貴族的なものと平民的なものとの不規則に週期的な消長角逐があった。それが貞門談林を経て芭蕉という一つの大きな淵に・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・いやしくも評家であって、専門の分岐せぬ今の世に立つからには、多様の作家が呈出する答案を検閲するときにあたって、いろいろに立場を易えて、作家の精神を汲まねばならぬ。融通のきかぬ一本調子の趣味に固執して、その趣味以外の作物を一気に抹殺せんとする・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・は菫となり、蒲公英となり、桜草となり、木は梅となり、桃となり、松となり、檜となり、動物は牛、馬、猿、犬、人間は士、農、工、商、あるいは老、若、男、女、もしくは貴、賤、長、幼、賢、愚、正、邪、いくらでも分岐して来ます。現に今日でも植物学者の見・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・あの穴八幡の坂をのぼってずっと行くと、源兵衛村のほうへ通う分岐道があるだろう。あすこをもっと行くと諏訪の森の近くに越後様という殿様のお邸があった。あのお邸の中に桑木厳翼さんの阿母さんのお里があって鈴木とかいった。その鈴木の家の息子がおりおり・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・ 自然に対する感情の社会性、階級性というものの文学以前の分岐点は、ここに根を置いているのである。 今日は雨が降っている。窓によって外を眺めると、田圃の稲の青々と繁ったところに、蓑笠つけて一人の農夫が濡れながら鍬をかついで歩いてゆく。・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
出典:青空文庫