・・・ 火災の基礎的研究には単に自然科学方面のみならず、また心理学的方面、社会学的方面にも広大な分野が存在する。たとえば東京市の近年の火災について少しばかり調べてみた結果でも、市民一人あての失火の比率とか、また失火を発見して即座に消し止める比・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・く、また連句の制作についてもきわめて乏しい体験しかもたないから、このような大問題に対してなんら解決のかぎを与えるような議論を提出する資格はないのであるが、試みに自分の浅い経験と知識を通してこの問題の一分野を瞥見したままの所見を述べてみること・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・くして仕上げたいと思う生存の目標に向って進む自己を悦びにより、苦しみにより一層豊饒にし、賢くしてくれる恋愛、それから発足した範囲の広い愛の種々相に対して、私共は礼讚せずにはいられませんが、無限な愛の一分野と思われる恋愛ばかりを天地に漲り、そ・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・しかし、日本のあらゆる官僚機構と学界のすべての分野に植えこまれている学閥の威力は、帝大法科出身者と日大の法科出身者とを、同じ人生航路に立たせなかった。「息子を世に立たせよう」という自身には封じられていた希望で、田畑を売ってまで「大学を出した・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・労働人口の二八パーセントを婦人が占めて、五百種類以上の職業分野に活動している。家庭の主婦たちにしても、いろいろな婦人団体やクラブの仕事をしている人の率が多い。世界民主主義婦人連盟、反ファシスト同盟、人権擁護同盟そのほかに属している婦人たちの・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・文化・文学における政治の優位性ということを、たたかいの年月を通じてまじめに体験し、理解している人は、既成の学問の諸分野において、民主的創造、民主的な学問の達成そのものが闘われなければならないことを痛感しています。学問を愛する多くの学生が大学・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 作者はまた、当時文学とよばれる分野に入りこんできたいかがわしい出版物について注意を喚起している。たとえば、ある作家によって『文芸』にもちこまれ、発表された勝野金政の「モスク」という小説について。この筆者は警視庁の特高課から手記を出版さ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・無産者芸術運動、その文学の分野では、自然発生的に宮嶋資夫、葉山嘉樹、前田河広一郎、江口渙その他の無産階級出身の小説家の作品が登場し、芸術理論の面では、平林初之輔、青野季吉、蔵原惟人等によってブルジョア文芸批評の主観的な印象批評に対して、文学・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・あらゆる芸術の分野でごく少数の卓抜な選良たちは常に主観と客観とを二つのものに分けて扱う習俗を跨ぎこして、真実の核心に迫って行っている。主観的な時代には特にそのことの価値が考えられるのである。〔一九四一年五月〕・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・ 寧ろ、現代の資本主義が強く文化分野を支配するようになってから、その取引場としてパリ、ロンドン、ニューヨークという風な首都が、文化・芸術の成果を集中しはじめた。文化・芸術の結実は、そのものとして人民に愛され、貴ばれる本質から変化させられ・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
出典:青空文庫