・・・中には近世人の書いた、平易な漢文を訳した本なんぞは、わたくしは少しもほしく思いません。 わたくしのほしいのは、古事記のような、ごく古い国文の訳本でございます。それからやや降って物語類の中では、源氏物語の訳本が一番ほしゅうございます。・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
・・・然るにここに書いた四箇条の誤訳は、皆極平易な句に過ぎぬ。そうでないのは所謂「とがき」などである。今後は難渋な句の誤訳をも、もしどこかにあったら、発見して貰いたい。私は訳本ファウストを読まれる人達に、一層深い望を属している。・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・彼の著として伝わっている『仮名性理』あるいは『千代もと草』は、平易に儒教道徳を説いたものであるが、しかし実は、彼の著書であるかどうか不明のものである。同じ書は『心学五倫書』という題名のもとに無署名で刊行されていた。初めは熊沢蕃山が書いたと噂・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫