・・・俺が描くから……とも子 またうなりを立てて、床の上にへたばるんじゃなくって。戸部 いいから……こいつら、うっちゃっておけ。戸部ひとりだけ、とも子をモデルにして描きはじめる。その間に次の会話が行なわれる。花田 全く・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・歩け。歩け。へたばるまで歩け」 私は残酷な調子で自分を鞭打った。歩け。歩け。歩き殺してしまえ。 その夜晩く私は半島の南端、港の船着場を前にして疲れ切った私の身体を立たせていた。私は酒を飲んでいた。しかし心は沈んだまますこしも酔っ・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・「もうお前、へたばるが。」「立てったら、立ちさらせ。」 安次は蹲んだまま怒った片肩をなお張り上げて、戸口までずるずる引き摺られた。「そんなことせんと、ここで休ましといてやらえな。」とお留は云った。「何アに此の餓鬼、贋病使・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫