・・・かつ淡島屋の身代は先代が作ったので、椿岳は天下の伊藤八兵衛の幕僚であっても、身代を作るよりは減らす方が上手で、養家の身代を少しも伸ばさなかったから、こういう破目となると自然淡島屋を遠ざかるのが当然であって、維新後は互に往来していても家族的関・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・といって品物を減らすと店が貧相になるので、そうも行かず、巧く捌けないと焦りが出た。儲も多いが損も勘定にいれねばならず、果物屋も容易な商売ではないと、だんだん分った。 柳吉にそろそろ元気がなくなって来たので、蝶子はもう飽いたのかと心配・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・誇張の気分を少し減らすとおもしろいところもないではないが。 坂本繁次郎。 おもしろいと言えばおもしろいがそれは白日の夢のおもしろさで絵画としてのおもしろみであるかどうか私にはわからない。この人の傾向を徹底させて行くとつまりは何もかいてな・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・その中にこのごしごしと物を擦り減らすような異な響だけが気になった。 自分の室はもと特等として二間つづきに作られたのを病院の都合で一つずつに分けたものだから、火鉢などの置いてある副室の方は、普通の壁が隣の境になっているが、寝床の敷いてある・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・人為的な作家の産業別わりあては、或る種のオッチョコチョイな作家が工場から工場へと鉛筆をもって飛びまわるという厄介を減らすかもしれない。然し優秀な、拡大力のある作家の芸術活動に題材の固定化を起させるという危険がある。 さらに、芸術はその特・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そして更にそのような人間としての惨苦を減らすための努力に歩み出さざるを得ない気持に高められ、統一されるものなのである。ここへ到達した時こそ、バックの作家的輪廓は一層大きくなり、人類に貢献する文学としての質においても歴史的なものとなり得ると思・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・ 農村の苦しい生活の中で「くちを減らす」ために少年労働に売られていく女の子、男の子のすくなくないことは、周知のことです。そういう境遇で、学校へもやられず、労働基準法の取しまりの目をくぐって農業、家内工業その他に働かせられている子供たちは・・・ 宮本百合子 「願いは一つにまとめて」
・・・ 私は、変質者、中毒患者、悪疾な病人等の断種は、実際から見て、この世の悲劇を減らす役に立つと信じる一人である。 結構なことであると思ったのであったが、私の心にはこの事につれ、おのずから又別様の観察が湧いた。有名なイタリーの犯罪心理学・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・お前ら自家の財産減らすことより考えやせんのや。」「安次の一疋やそこら何んじゃ。それに組へのこのこ出かけていって恰好の悪いこと知らんのか!」「何を云うのや、お前!」 お霜は勘次をじっと見た。「しぶったれ!」勘次は小屋の外へ出て・・・ 横光利一 「南北」
・・・もちろん漱石は客を好む性であって、いやいやそうしていたのではないであろうが、しかしそれは客との応対によって精力を使い減らすということを防ぎ得るものではない。客が十人も来れば台所の方では相当に手がかかる。しかし客と応対する主人の精神的な働きも・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫