・・・そのほか、新藤源四郎、河村伝兵衛、小山源五左衛門などは、原惣右衛門より上席でございますし、佐々小左衛門なども、吉田忠左衛門より身分は上でございますが、皆一挙が近づくにつれて、変心致しました。その中には、手前の親族の者もございます。して見れば・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
一 クリスマス 昨年のクリスマスの午後、堀川保吉は須田町の角から新橋行の乗合自働車に乗った。彼の席だけはあったものの、自働車の中は不相変身動きさえ出来ぬ満員である。のみならず震災後の東京の道路は自働車を躍ら・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・こんなものが食えるものかと、お君の変心を怒りながら、箸もつけずに帰ってしまった。そのことを夕飯のとき軽部に話した。 新聞を膝の上に拡げたままふんふんと聴いていたが、話が唇のことに触れると、いきなり、新聞がばさりと音を立て、続いて箸、茶碗・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ 勝軍地蔵か祇尼天か、飯綱の本体はいずれでも宜いが、祇尼は古くからいい伝えていること、勝軍地蔵は新らしく出来たもの、だきには胎蔵界曼陀羅の外金剛部院の一尊であり、勝軍地蔵はただこれ地蔵の一変身である。大日経巻第二に荼枳尼は見えており、儀・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・御面倒ナガラ発行所ト如何ナル御作、集録致サレ候ヤ、マタ、貴殿ノ諸作ニ対スル御自身ノ感懐ヲモ御モラシ被下度伏シテ願上候。御返信ネガイタク、参銭切手、二枚。葉書、一枚。同封仕リ候。封書、葉書、御意ノ召スガママニ御染筆ネガイ上候。ナオマタ、切手、・・・ 太宰治 「虚構の春」
変心 文壇の、或る老大家が亡くなって、その告別式の終り頃から、雨が降りはじめた。早春の雨である。 その帰り、二人の男が相合傘で歩いている。いずれも、その逝去した老大家には、お義理一ぺん、話題は、女に就いての、極めて不きんし・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・しかし、この女のように、こんなに見事に変身できる女も珍らしい。「さては、相当ため込んだね。いやに、りゅうとしてるじゃないか。」「あら、いやだ。」 どうも、声が悪い。高貴性も何も、一ぺんに吹き飛ぶ。「君に、たのみたい事があるの・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ばけもの奇術師が、よく十二三位までの女の子を、変身術だと申して、ええこんどは犬の形、ええ今度は兎の形などと、ばけものをしんこ細工のように延ばしたり円めたり、耳を附けたり又とったり致すのをよく見受けます。」「そうか。そして、そんなやつらは・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ずっと前から手紙をかくときのことをいろいろ考えていたのに、いざ書くとなると、大変心が先に一杯になって、字を書くのが窮屈のような感じです。 先ず、心からの挨拶を、改めて、ゆっくりと。―― 三日におめにかかれた時、自分で丈夫だと云ってい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・しかしそれに就いて倅と往復を重ねた所で、自分の満足するだけの解決が出来そうにもなく、倅の帰って来る時期も近づいているので、それまで待っても好いと思って、返信は別に宗教問題なんぞに立ち入らずに、只委細承知した、どうぞなるべく穏健な思想を養って・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫