・・・それを見物に行く町の若い衆達のうちには不思議な嗜被虐性変態趣味をもった仲間が交じっていたようである。というのは、昔からの国の習俗で、この日の神聖な早乙女に近よってからかったりする者は彼女達の包囲を受けて頭から着物から泥を塗られ浴びせられても・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・というのは破壊的な乱暴者でもなければ、無意味に変態な病的のものを求める猟奇者でもないことは勿論である。現在の「きたない絵」を描く人達は古い伝統を離れようとして新しい伝統の穴に陥って藻掻いているようである。むしろ、あらゆる伝統を深く掘り下げ、・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・ シナの庭園も本来は自然にかたどったものではあろうが、むやみに奇岩怪石を積み並べた貝細工の化け物のようなシナふうの庭は、多くの純日本趣味の日本人の目には自然に対する変態心理者の暴行としか見えないであろう。 盆栽生け花のごときも、また・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・同じ誤謬に立脚した変態の俳句などは、自分の皮膚の黄色いことを忘れた日本人のむだな訓練によってゆがめられた心にのみ感興を呼び起こすであろう。 この短詩形の中にはいかなるものが盛られるか。それはもちろん風雅の心をもって臨んだ七情万景であり、・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ 人間の生涯には、少なくも母体を離れた後にこのように顕著な肉体的の変態があるとは思われない。しかしある程度の不連続な生理的変化がある時期に起る事もよく知れ渡った事実である。蚕や蛇が外皮を脱ぎ捨てるのに相当するほど目立った外見上の変化はな・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ 私は職業の性質やら特色についてはじめに一言を費やし、開化の趨勢上その社会に及ぼす影響を述べ、最後に職業と道楽の関係を説き、その末段に道楽的職業というような一種の変体のある事を御吹聴に及んで私などの職業がどの点まで職業でどの点までが道楽・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・或は他の例を以てするならば元来変態心理と正常な心理とは連続的でありますから人類は須く瘋癲病院を解放するか或はみんな瘋癲病院に入らなければいけないと斯うなるのであります。この変てこな議論が一見菜食にだけ適用するように思われるのはそれは思う人が・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・鶴さんは大変体が参って居ります。そしてこの人は科学的には治療出来ないの、私は心配して居ます。彼は生きなければなりません。その重要さがはたしてどの位わかっているかしら、よくそう思う。 この間島田へ上林からお送りしたのは松葉の茶です。今度は・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 私は去年の暮から大変体を悪くして、外出や講演が出来なくなったのでいろいろな組合からの御依頼も果せずにおります。組合の中には随分文学好きな方もあって、全逓の作品集『檻の中』が出ている位ですから私も健康が許す様になったらサークルにも出席し・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・ 美しい女が男装したときに現れる変体的な魅力は、古くは有名なフランスの名女優サラベルナールの舞台姿である。デートリッヒは貧弱であるがタキシードを巧に着た。ターキーは、もっと明るくて健康であり、若い娘の扮する男役の効果については、彼女自身・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫