・・・汽車の中で小倉の宿は満員らしいと聴いたので、別府の温泉宿に泊り、そこから毎朝一番の汽車で小倉通いをすることにした。夜、宿へつくとくたくたに疲れていたので、寺田は女中にアルコールを貰ってメタボリンを注射した。一代が死んだ当座寺田は一代の想い出・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・雪の下は都会めかしたアスファルトで、その上を昼間は走る亀ノ井バスの女車掌が言うとおり「別府の道頓堀でございます」から、土産物屋、洋品屋、飲食店など殆んど軒並みに皎々と明るかった。 その明りがあるから、蝋燭も電池も要らぬ。カフェ・ピリケン・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・サ島 「サ」は乾、乾出せる岩礁か。万々 「メム」は沼またラグーン。物部 「ポロペッ」大河。韮生 「ニナラ」高原。また「ニ」樹「オロ」豊富。夜須 「ヤシ」網を引く。別府 「ペッポ」小河。別役 「ペッチャ」河「クッ」・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・ これは、別府でふと心づいたことだが、九州を歩いて見、どこの樹木でも大体本州の樹より細幹とでも云うのか、すらりと高く繊細な感じをもっているのは意外であった。勿論釣合の上のことで、太い大木だって在る。けれども決して、北国の樹のように太短く・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・主として重油、機械油、リグロイン等を精製するのだそうであるが、その露天泉を眺めた時、自分は別府温泉の地獄まわりで坊主地獄と云ったか、それを思い出した。黒石油は重く、泥が煮えるように湧き立っているのである。 二露里ばかり行ったところに白石・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・京都にいた間、また、九州に来てから別府、臼杵などにいた間、塵をしずめる打ち水となる程度の降雨に会っただけで、ために予定を変えるような目には遭わなかった。日向で青島へ廻った日、鹿児島で一泊したその翌日、特に快晴で、私達は、世にも明るい日向、薩・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫