・・・そりゃ恋人の顔が、幕なりにぺちゃんこに見えちゃ、かなしかろうさ。これには、僕も同情したよ。「何でも、十二三度その人がちがった役をするのを見たんです。顔の長い、痩せた、髯のある人でした。大抵黒い、あなたの着ていらっしゃるような服を着ていま・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・街上には電線や電車の架空線がもつれ下っている下に、電車や自動車の焼けつくした、骨ばかりのがぺちゃんこにつぶれています。風がふくたびに、こげくさい灰土がもうもうとたって目もあけていられないくらいです。二日三日なぞはその中をいろいろのあわれなす・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・それで、とうとう学校が遅れて、着いてみたら、大雪を冠ったおれの教室は、雪崩でぺちゃんこに潰れて、中の生徒はみな死んでいました。もう少し僕が早かったら、僕も一緒でした。」 栖方は後で母にその小鳥の話をすると、そんな鳥なんかどこにもいなかっ・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫