・・・日本の十数万人の旧治安維持法の被害者はもちろん、涜職、詐欺、窃盗、日本の法律によってとりしらべられたすべての人々で、刑事や検事からこの言葉をきかされなかった者はおそらく一人もないだろう。法学博士で大臣だった三土忠造でさえ、一九二九年か三〇年・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 法学博士横田喜三郎氏が、『時論』五月号の評論に詳細に述べておられるとおり、第二次大戦で直接国土に戦禍をうけなかった国はアメリカだけである。アメリカは第一次大戦においても同じ幸運を保った。第二次大戦では軍人だけの損失が一五〇〇万人とされ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・という叢書が東京河出書房から出されはじめた。法学博士穂積重遠、中川善之助両氏の責任監輯で、各巻第一部史論篇、第二部法律篇全部で五巻十冊の予定である。内容は婚姻。離婚。親子。家。相続。各巻をなしていずれも、今日に至るまでの社会の歴史の発達の面・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・木村よりは三つ四つ歳の少い法学博士で、目附鼻附の緊まった、余地の少い、敏捷らしい顔に、金縁の目金を掛けている。「昨日お命じの事件を」と云いさして、書類を出す。課長は受け取って、ざっと読んで見て、「これで好い」と云った。 木村は重荷を・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ 館のあるお花畠からは、山崎はすぐ向うになっているので、光尚が館を出るとき、阿部の屋敷の方角に人声物音がするのが聞こえた。「今討ち入ったな」と言って、光尚は駕籠に乗った。 駕籠がようよう一町ばかりいったとき、注進があった。竹内数・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ そこで己は外の方角から、エルリングの事を探知しようとした。 己はその後中庭や畠で、エルリングが色々の為事をするのを見た。薪を割っている事もある。花壇を掘り返している事もある。桜ん坊を摘んでいる事もある。一山もある、濡れた洗濯物を車・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そして思わず燃え下がったマッチでその方角を照して見た。なんだかヴェエルで顔をすっかり包んだ女のような姿がちらと見えたらしかった。そのうちマッチは消えて元の闇になった。 フィンクは今の声がまたすれば好いと思って待っている。そのうち果してま・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・戦争については、吉日を選び、方角を考えて時日を移すというような、迷信からの脱却を重大な心掛けとして説いている。その他正直者の重用を説き、理非を絶対に曲げてはならないこと、断乎たる処分も結局は慈悲の殺生であることなどを力説しているのも、目につ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫