・・・国の富強文明を謀るのみならず、外面の体裁虚飾に至るまでも、専ら西洋流の文明開化に倣わんとして怠ることなく、これを欣慕して二念なき精神にてありながら、独りその内行の問題に至りては、全く開明の主義を度外に放棄して、純然たる亜細亜洲の旧慣に従い、・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・日本の治安維持法は、マルクシズムを放棄させ、運動から離脱することを要求したばかりでなく、更にすすんでその人がファッシズムに従うように強制した。マルクシストであったものこそファシストになるべきとされた。ここに、おどろくべく深い人間精神虐殺の犯・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・そのようにわたしたちは、起伏する社会現象をはげしく身にうけながら、そこからさまざまの感想と批判と疑問とをとり出しつつ、人間らしい人生を求める航路そのものを放棄してはいない。昔の女性が世間智でとりあつめた常識は、すでにやぶれた。身のまわりに渦・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・自己放棄の道を通ってさえも秋声は常に動く人生の中に自分をおいて、ともに動いて自分を固定させなかったということを秋声短論の中で広津和郎氏が云っているのは、秋声の根本の特色をとらえていると思う。 秋声は、ほんとうに自分を生きながら記念像とし・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・常識的な大人を恐怖させるほど率直な真実探求の欲望にもえる十五六歳より以後の年代を、これらの有能な精神は、そのままの真率さで戦争のための生命否定、自我の放棄へ導きこまれた。専門学校では文科系統の学徒が容しゃなく前線へ送り出され、理科系統のもの・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・シー時代から提唱されていまだに未解決な課題が再びとりあげられているとともに、アメリカを民主国家として知る世界のすべての人にとって、それが存在し得ていることを不審に思わせていたいくつかの民主的と見えない法規への廃止と独占資本の害悪に反対する主・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ などとスローガンが並べられ、人民を武装蜂起に挑発している。 スローガンだけあるが、生産を国家管理にするといっても、それはどういう国家がどう生産を管理するのであるのか、階級なき新日本と云っても、犬養を殺し、軍部が暴威を振って階級が無くな・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・一九五〇年の十月、日本全国で二十代の男女労働者の大量が、「政治的思想的立場を理由にして、つまり国の憲法と労働関係法規とに違反して首切られました」、二十代の全国の学生は、同じく「政治的思想的立場を理由にして」追放されようとしている教授を擁護し・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 舞台裏へ行ったら、これからインドの民衆が、イギリス人とブラマンとに反抗して蜂起する大詰の下拵えでいる。黒いインドの子が、赤い旗をせっせと仲間の手から手へ渡していた。〔一九三一年一月〕・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・現在、さまざまの理由から労働法規を無視して失業させられている男女は、新しい何かの職業を見つけることがほとんど不可能である。しかし、一人一人生きなければならない。若い女性の前にひらいているのは、何かの形での売笑的職業でしかない、とさえ云える。・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
出典:青空文庫