・・・さればこの場合に之を云々するのは、恰も七十の老翁を捉えて生命保険の加入契約を勧告し、或はまた玉の井の女に向って悪疾の有無を問うにもひとしく、あまりにばかばかし過る事である。是亦車中百花園行を拒むもののなかった理由であろう。わたくし達は、又日・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・それで金はなくてもかまわないから、どうしても道楽をしない保険付きの堅い人にもらってもらおうと、夫婦の間に相談がまとまったのである。 自分の妻は先方から聞いてきたとおりをこういうふうに詳しくくりかえして自分に話したのち、重吉さんならまちが・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・「日本から来たんです」「ふーむ。そりゃ結構だ。――わかりましたか、ホレそこを真直行って……」ともう一遍教えてくれた。 入ってゆくと廊下で、左側には「賃銀支払金庫」「保険貯金」などと札の下った窓口が並んでいる。右側に戸がなるほど二・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・番の特長は、それがいつでも大衆の活々した日常生活と結びついているところにあると云うはじまりで、細かくソヴェト同盟の失業と搾取のない労働者の生活、政治上の権利、ソヴェト同盟の工場学校、労働者クラブ、社会保険のことなどを演説しました。 この・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・丸の内の宏壮な建物を見てもわかるように、保険会社は富んでいるものだが、現在、生命保険会社の支払い方法は、他殺だと保険金詐欺でない限り普通の病死と同じに全額を支払うことになっているのだそうだ。自殺の場合、契約後一年――三年は全く支払わず、三年・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ 例えばいろいろな火災保険であるとか、戦時保険であるとか、また、退職手当というものも、大分使い果してしまっているのであります。別に私たちのところに、何万円もの金があって、それが自由になるなどという人は一般にはないわけです。 モラトリ・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・なぜないかといえば、人間は生きる以上は働く権利があるのですから、働く権利が根本的に守られていれば、自分の能力を良心的に十分働かせてゆけば、その社会から働いているものという意味で、養老保険も失業保険も健康に対する保険も、母性保護のいろいろな設・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・国民消費としてひっくるめていえば、人口には女も入って、女の酒、女の煙草も、これまで内務省や文部省が保健と精神規律の上からそれを眺めていたとは異った角度でながめられようというのであろうか。 銃後の婦人に求められている緊張、活動とその性質と・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・もしまた、適度の砂糖は人間の健康に必要なものであるから、というのならば、つい先頃まで砂糖の害だけを云いたてて、科学的に国民保健上最低の糖分の必要さえ示そうとしなかった政府と栄養専門家、医者たちの軍事的御用根性について、この際正直に反省してほ・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・これらのひとびとは国民健康保険、養老年金、傷害保険、その他一年、二ヵ月の休暇や、いろいろな条件をもっています。お母さんが病気をしたり姙娠した場合は、働いている人の妻であり、勤労者の妻である、組合員の妻であるということで、組合から地区の病院、・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
出典:青空文庫