・・・ だが、数日の後、おやじは、別の支那人をつれてきた。保証金を取った。そして、倉庫に休んでいる品々を別の橇に積みこませた。 四 黒竜江の結氷が轟音とともに破れ、氷塊は、濁流に押し流されて動きだす春がきた。 ・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・中隊長は、前哨に送った部下の偵察隊が、××の歩哨と、馴れ/\しく話し合い、飯盒で焚いた飯を分け、相手から、粟の饅頭を貰い、全く、仲間となってしまっているのを発見して、真紅になった。「何をしているか!」 中隊長は、いきなり一喝した。・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・而して、敵手との闘争に於ける一切の偶発事に対して独占団体の成功を保証するものは、独り植民地あるのみである。」だから、資本家は、「植民地の征服を熱望する。」そうして、「金融資本と、それに相応する国際政策とは、結局世界の経済的政治的分割のための・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ 栗本は、長い夜を町はずれの線路の傍で、幾回となく交代しつゝ列車の歩哨に立った。朝が来るのを待って兵士達は、それに乗りこんで出発するのだ。寒気は疼痛をもって人に迫ってきた。警戒所でとった煖炉の温度は、扉から出て二分間も歩かないうちに、黒・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・ 門鑑は、外から這入って来る者に対して、歩哨のように、一々、それを誰何した。 昔、横井なに右衛門とかいう下の村のはしっこい爺さんが、始めてここの鉱山を採掘した。それ以来、彼等の祖先は、坑夫になった。――井村は、それをきいていた。子も・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・私に肝要なものは、余生を保障するような金よりも強い足腰の骨であった。 大きくなった子供らと一緒に働くことの新しいよろこび、その考えはどうにか男親の手一つで四人のちいさなものを育てて来た私にふさわしく思われた。私は自分の身につけるよりも、・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・そのため、東京市中や市外の要所々々にも歩哨が立ち、暴徒しゅう来等の流言にびくびくしていた人たちもすっかり安神しましたし、混雑につけ入って色んな勝手なことをしがちな、市中一たいのちつじょもついて来ました。出動部隊は近衛師団、第一師団のほか、地・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・丁度森が歩哨を出して、それを引っ込めるのを忘れたように見える。そこここに、低い、片羽のような、病気らしい灌木が、伸びようとして伸びずにいる。 二人の女は黙って並んで歩いている。まるきり言語の通ぜぬ外国人同士のようである。いつも女房の方が・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・山田さんもそれは保証していらっしゃいました。」「僕だって保証いたします。」 その、あてにならない保証人は、その翌々日、結納の品々を白木の台に載せて、小坂氏の家へ、おとどけしなければならなくなったのである。 正午に、おいで下さ・・・ 太宰治 「佳日」
・・・飼い主でさえ、噛みつかれぬとは保証できがたい猛獣を、その猛獣を、放し飼いにして、往来をうろうろ徘徊させておくとは、どんなものであろうか。昨年の晩秋、私の友人が、ついにこれの被害を受けた。いたましい犠牲者である。友人の話によると、友人は何もせ・・・ 太宰治 「畜犬談」
出典:青空文庫