・・・その働の急劇なるは事実の要用においてまぬかるべからざるものなり。その細目にいたりては、一年農作の飢饉にあえば、これを救うの術を施し、一時、商況の不景気を見れば、その回復の法をはかり、敵国外患の警を聞けばただちに兵を足し、事、平和に帰すれば、・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・、ついに同国人とともに一国の独立を謀るも自然の順序なれば、自主独立の一義、もって君に仕うべし、もって父母に事うべし、もって夫婦の倫をまっとうし、もって長幼の序を保ち、もって朋友の信を固うし、人生居家の細目より天下の大計にいたるまで、一切の秩・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ ランプがいつか心をすっかり細められて障子には月の光が斜めに青じろく射している。盆の十六日の次の夜なので剣舞の太鼓でも叩いたじいさんらなのかそれともさっきのこのうちの主人なのかどっちともわからなかった。(踊りはねるも三十がしまいって・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
・・・象はいかにもうるさいらしく、小さなその眼を細めていたが、またよく見ると、たしかに少しわらっていた。 オツベルはやっと覚悟をきめて、稲扱器械の前に出て、象に話をしようとしたが、そのとき象が、とてもきれいな、鶯みたいないい声で、こんな文句を・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・での現実の考えかた、観かたはいつも真に透徹した明晰さをかいていて、どこかに真実を歪めたりかくしたりする偽瞞をもっていること、詭弁から解放され得ないことを、ソヴェトのそとのヨーロッパ諸国の生活のあらゆる細目から感じた。その植民地問題の論じかた・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・というルポルタージュを書いてロンドンの東の恐ろしい生活の細目を世界の前にひらいてみせた。イーストは一九二九年にもやっぱりイーストだった。そこからぬけ出しようのないばかりか、悪化してゆく貧困にしばりつけられた人々の生きている地区だった。尨大な・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・まるで天眼通を授かったように、血なまぐさい光景の細目まで、歴然と目の前にえがかれて来た。これでは、実際あると同じこわさだ。神よ、私に眠りを授け給え! 一晩じゅう、どんなに私が体を火照らせ、神経を鋭敏に働かせ通したか、あけ方の雀が昨日と同・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ 作者の心持が稚くても、ふっくりとしていて、描かれている農村の生活の細目も自然にうけとれた。ただし、主人公の青年の父親が、農民の生活を不安にする現実から、段々民主的な働きに目を向けて来てやがて積極的になってからのところが、割合安易にかけ・・・ 宮本百合子 「稚いが地味でよい」
・・・広い額が内面の充実した重さでいくらか傾き、濃い眉毛のしたの大きい強い眼はいくらか細めてレンズに向けられている。彼の右肩に一つの手が軽くのせられている。それはイエニーのすらりとした手である。のどのつまった、袖口の広い服を裾長に、イエニーはカー・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・すると、正面に当る廊下の両開きになっている扉の片方が細めにすーと開いて、そこから誰かの眼が内をのぞいた。弟は、書生さんが起しに来てくれたと思った。帳面から顔をあげず、もう起きてるよ、と云って、読みつづけていた。暫くして上の弟が起きて来て、初・・・ 宮本百合子 「からたち」
出典:青空文庫