・・・……幽に人声――女らしいのも、ほほほ、と聞こえると、緋桃がぱッと色に乱れて、夕暮の桜もはらはらと散りかかる。…… 直接に、そぞろにそこへ行き、小路へ入ると、寂しがって、気味を悪がって、誰も通らぬ、更に人影はないのであった。 気勢・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・誰も知らないもののない方でございます。ほほほ、」「そりゃ知らないもののない人かも知れんがね、よそから来た私にゃ、名を聞かなくっちゃ分らんじゃないか、どなただよ。」 と眉を顰める。「そんな顔をなすったってようございます。ちっとも恐・・・ 泉鏡花 「縁結び」
・・・「貴下、そのを、端書を読む、つなぎに言ってるのね。ほほほほ。」 謹さんも莞爾して、「お話しなさい。」「難有う、」「さあ、こちらへ。」「はい、誠にどうも難有う存じます、いいえ、どうぞもう、どうぞ、もう。」「早速だ、・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・「ああ、しましょうとも、しなくってさ、おほほ、三ちゃん、何を張るの。」「え、そりゃ、何だ、またその時だ、今は着たッきりで何にもねえ。」 と面くらった身のまわり、はだかった懐中から、ずり落ちそうな菓子袋を、その時縁へ差置くと、鉄砲・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・「酔ってますね、ほほほ。」 蓮葉に笑った、婦の方から。――これが挨拶らしい。が、私が酔っています、か、お前さんは酔ってるね、だか分らない。「やあ。」 と、渡りに船の譬喩も恥かしい。水に縁の切れた糸瓜が、物干の如露へ伸上るよう・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ やがて、つくづくと見て苦笑い、「ほほう生れかわって娑婆へ出たから、争われねえ、島田の姉さんがむつぎにくるまった形になった、はははは、縫上げをするように腕をこうぐいと遣らかすだ、そう、そうだ、そこで坐った、と、何ともないか。」「・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・「こればかしは、いけないの。」と、お姉さんは念を押すようにおっしゃいました。「僕の持っているもの、お姉さんにあげるけどなあ。」と、良ちゃんは、いいました。「ほほほほ、良ちゃんは、どんなものを持っているの?」「僕だいじにしてい・・・ 小川未明 「小さな弟、良ちゃん」
・・・と、正ちゃんが いうと、しげ子さんが、「おほほ。」と わらいました。「ええ、しましょうよ。」と、しらない 女の 子が いいました。「正ちゃん、とられても おこりっこ なしよ。」と、しげ子さんが いいました。「・・・ 小川未明 「はつゆめ」
・・・「ほほほ、阿母さんもあまりそれは、安く自分で落し過ぎますよ。可哀そうにお仙ちゃんは、縹致だって気立てだってあの通り申し分ないんですもの、そりゃ行こうとなさりゃどんなところへでも……」「いいえ、そんなことを思っていると大間違いです。こ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・あらいやな髭なんぞを生やして、と言いかけしがその時そこへ来たる辰弥の、髯黒々としたるに心づきて振り返りさまに、あら御免なさいましよ、おほほほほ、と打って変りたる素振りなり。 これは私の親戚のもので、東条綱雄と申すものです。と善平に紹介さ・・・ 川上眉山 「書記官」
出典:青空文庫