・・・というものが出来て、婦人が政治演説を傍聴することを禁じた。 ここで私共は、一つの驚きを以て顧みる。日本の憲法というものは、何と外国の憲法と性質の異ったものであるかということである。憲法というものは、何処の国でも、支配者の大権と共に人民の・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・必ず、わきに立ち傍聴し、前かけをひねくって、時には涙をおとしている女中に同情した。十一二歳になった少女には、稚い正義感が芽生えてそういうとき段々女中の弁護者となって行った。子供は実証主義者だから、母が主人という立場から、かくかくにするべきも・・・ 宮本百合子 「私の青春時代」
・・・ ここまで傍聴していた奥さんが、待ち兼ねたように、いろいろな話をし掛けると、秀麿は優しく受答をしていた。この時奥さんは、どうも秀麿の話は気乗がしていない、附合に物を言っているようだと云う第一印象を受けたのであった。 それで秀麿が座を・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・「しかしこんなに膨脹しては、名は小でも、邪魔になるね。なぜわざわざ取り寄せたのだ。」「なに、教師をしていると、人名や地名の説明を求められますから、この位な本がないと、心細いのです。」 F君と私とは会話辞書の話をした。Meyer ・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・彼の肉体が毛布の中で自身の温度のために膨張する。彼の田虫は分裂する。彼の爪は痒さに従って活動する。すると、ますます活動するのは田虫であった。ナポレオンの爪は彼の強烈な意志のままに暴力を振って対抗した。しかし、田虫には意志がなかった。ナポレオ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・そこにはある事件の傍聴のために多数の市民が集まっている。事件の判決が済むと、余興をでもやらせるような調子で彼が呼び出される。君は珍しい話を知っているそうだが、一つその新しい宗教というのを説明してもらいたい。 パウロは山頂の石壇に上り、ア・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫