・・・そして、誰かがそれをとろうとすると、半寝呆けながら「いや、お父様んだから百合ちゃんがもっていく」と拒みながら。 書簡註。軽い夕飯を食っているのはグリーン色の縞のスカートに膝出したハイランダアである。炉辺にかけて、右手で・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 他人の云うことも聞えないことの方が多かったりして、彼は我ながら、はあ呆けて来たわえと思うことなどもあった。 苦しい生活に疲れた彼の心は、ひたすら安静を望んでいるのである。もう激しい世の中から隠遁してしまいたくなっているのである。・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・汽車に揺られて、節々が痛む上に、半分寐惚けて、停車場に降りた。ここで降りたのは自分一人である。口不精な役人が二等の待合室に連れて行ってくれた。高い硝子戸の前まで連れて来て置いて役人は行ってしまった。フィンクは肘で扉を押し開けて閾の上に立って・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫