・・・これこそ、真に日本の母性の輝かしい姿なのであります。 望むらくは、すべてのお母さんが、子供のために、犠牲となる覚悟を持ってもらいたいのです。家庭の事情によりては、母親は、常に子供といっしょにいられぬものもありましょう。他に仕事を持ち、働・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・現在の社会ではいわゆる婦人の権利拡張の闘争から手を引くことは、一層鎖を重くすることになるが、理想的国家では、処女性、母性、美容の保護、ならびに、これと矛盾しない仕事しかしないということが婦人の天与の権利でなくてはならぬ。そしてこれを保証する・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ 二 母性愛 私の目に塵が入ると、私の母は静かに私を臥させて、乳房を出して乳汁を目に二、三滴落してくれた。やわらかくまぶたに滲む乳汁に塵でチクチクしていた目の中がうるおうて塵が除れた。 亡くなった母を思い出すたび・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・動物的、本能的愛護と、手足の労働による世話と、犠牲的奉仕とが母性愛と母子間の従属、融合の愛と理解と感謝とに如何に大きな影響を持つかは思い半ばにすぎるものがある。人倫の根本愛の雛型である母子間の結紐を稀薄にすることが理想的社会の結合を暖かく、・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・一度目ざめんとして中止されていた母性が、この知らぬよその子猫によって一時に呼びさまされたものと思われた。私は子を失った親のために、また親を失った子のために何がなしに胸の柔らぐような満足の感じを禁じる事ができなかった。 三毛の頭にはこの親・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・これこそ本能的母性愛の生み出した天然の芸術であろう。 荒川が急に逆様に流れ出したと思ったら、コースがいつの間にか百八十度廻転して帰り路になっていた。 キャディが三人、一人はスマートで一人はほがらかな顔をしているがいずれも襟頸の皮膚が・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・婦人労働者が平等の賃銀と母性保護を求め、女子学生が文部省のひどい月謝値上げに反対していて、男子学生とともに、働きながら学べる大学を求めていることは、この新帰朝者に知られていません。日本のわたしたちは、憲法の抽象的な人権擁護の文句を、実質のあ・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・警視庁がこれに対して、十二時間を限度とする警告を発したのは遠いことではなかった。母性保護の見地から婦人労働者の入坑を禁じた鉱山労働へ、女は石炭に呼ばれ、再び逆戻りしかけている。幼年労働の無良心な利用も問題とされているのである。 婦人が性・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・―― 母性は非常に本源的なものであるが、それだけに無差別な横溢はしないものであると感じられる。しんから打込んだ男の子こそ生みたいのが母性の永遠の欲求である。過去の日本における結婚が女の生涯を縛りつけた重みの中には、生まされた子を育てると・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・そのために、労働基準法で、母性保護の諸条件が多くなることで、雇主は、一人当り費用の多くなる婦人を使うより生理休暇のいらない、深夜業の出来る男を使った方がいいと、逆に勤労婦人の生活安定をおびやかすことにもなって来るのである。 勤労人民にと・・・ 宮本百合子 「いのちの使われかた」
出典:青空文庫