・・・同時にその市場を運営していたアムステルダムの市民は、ルーベンス、レンブラントの芸術を生む母胎ともなった。ハンザ同盟に加っていたヨーロッパのいくつかの自由都市は、それぞれのわが市から出発して商業の上で世界を一まわりしていたばかりでなく、当時の・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・今度私が病気したことは、この人にとっては案外なもうけもので、一緒にBや心臓の薬を注射したため、母体の条件が大変よくなってきているそうで何よりです。今は皆自信を持って安産を考えていますが、夏頃はひどくうっ血した顔をしているし、苦しがっているし・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・「モチーフとは、作品にとっては作者なる母体につながる臍の緒である」本当にそうではないだろうか。 例えば青野氏が真情をこめて「小説というものは、作家の誠実な生命と結びついたもので、その意味では容易に生み出されるものでなく」と云われる場合、・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・文学のうまれる母胎としての社会の階層・階級を、勤労するより多数の人々の群のうちに見いだし、社会の発展の現実の推進力をそれらの勤労階級が掌握しているとおり、未来の文化発展も、そこに大きい決定的な可能として潜在していることを理解したのであった。・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・女性は人類の母体であると云う理解のない女性の運命は暗うございます。 此点に於て、米国婦人の得て居る権威は、彼女等の総ての明みの起縁に成って居ると思わずには居られません。彼女等は、女性と云う性的差別、性的生活以外に、一人類としての五体をも・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・そして、自分たちの経験を発展の母胎と見、それにいちおうは執しようという心持は、民主主義文学のいわれている今日の日本で独特の混乱の源泉となりました。日本文学の伝統の中に近代の意味での自我は確立していなかったのだから、ブルジョア民主主義の段階に・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・的世界をもひろげて行くのだけれど、今日ではまだその目で見耳にきかされることを十分理解し、洞察し、判断し、事の真実にまでわが心情にふれて行って芸術的な作品を生み出してゆくところまで婦人作家の生活と芸術の母胎は強靭になっていない。題材的にひろが・・・ 宮本百合子 「拡がる視野」
・・・読者としての大衆の文化水準の低さのみがこの場合目につけられ、作家そのものの実質を低下させている社会的母胎の質の問題が見落された時、一部の作家自身が云うように「抽象的な情熱」が喚び迎えられることになるのである。 私は、今日万葉、王朝の精神・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・文学は、自身の母胎である社会のそのような若さの特徴からもたらされるよろこびと悲しみの全部を、その肉体のあらゆる屈折で語りつつ、明日へ前進しなければならないのである。 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・女として見れば、きょうの世の中には生ませられる母と生ませられない母胎というものが余りありすぎる。文筆の上では、私という一人の女が、さながら子供なんぞ可愛いと思ってはいけない夜叉のヒューマニズムでも高々とふりかざしているかのように云われる舟橋・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
出典:青空文庫