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・・・火の奴め、苦なしでふわふわとのしおった、その時は、おらが漕いでいる艪の方へさ、ぶくぶくと泳いで来たが、急にぼやっと拡がった、狸の睾丸八畳敷よ。 そこら一面、波が黄色に光っただね。 その中に、はあ、細長い、ぬめらとした、黒い島が浮いた・・・
泉鏡花
「海異記」
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・・・「なんだがお日さんぼやっとして来たな。」 空に少しばかりの白い雲が出ました。そしてもうだいぶのぼっていました。谷のみんなの家がずうっと下に見え、一郎のうちの木小屋の屋根が白く光っています。 道が林の中に入り、しばらく道はじめじめ・・・
宮沢賢治
「風の又三郎」