・・・ある時その燕は二人っきりでお話をしようと葦の所に行って穂の出た茎先にとまりますと、かわいそうに枯れかけていた葦はぽっきり折れて穂先が垂れてしまいました。燕はおどろいていたわりながら、「葦さん、ぼくは大変な事をしたねえ、いたいだろう」・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・やっと、日暮れ前に、一つの丸木橋を見いだしましたので、彼女は、喜んでその橋を渡りますと、木が朽ちていたとみえて、橋が真ん中からぽっきり二つに折れて、娘は水の中におぼれてしまいました。「死んでも、魂だけは、故郷に帰りたい。」と、死のまぎわ・・・ 小川未明 「海ぼたる」
・・・そうして、いつかどこかでごちそうになったときに出された吸い物の椎茸をかみ切った拍子にその前歯の一本が椎茸の茎の抵抗に負けてまん中からぽっきり折れてしまった。夏目漱石先生にその話をしたらひどく喜ばれてその事件を「吾輩は猫である」の中の材料に使・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫