-
・・・ シャンシャン、シャンシャン。夕刊売の鈴の音が、帰心にせかれる行人の心に、果敢ない底さむさを与える。 ぽつり、ぽつり、彼方此方に瞬き始めた街燈の蒼白い光とともに、私は、いよいよいそいだ。が、目ざして行く停留場から、半丁程も手前に来た・・・
宮本百合子
「小景」
-
・・・遠くの円形棧敷の貴賓席に、ぽつりと一人いる人の黒服と白髪の輪廓も鮮やかにこちらから見える。 開会されたのは三時すぎであった。何百何千のひとは、今朝になるまで、この未曾有の遅延が、「質問順位で大荒れ」を理由とするとは知らず、二時間以上待っ・・・
宮本百合子
「待呆け議会風景」