・・・ まじまじ自分を眺め母親は、「本当に、これじゃあどっちが余計苦労しているのか分らないようだよ、お前はいつ会っても平気そうに笑っているけれど……」「だって、泣くわけもないもの」 自分は重く、声高く笑い、自分には興味のない犬だの・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 彼女はその様子に一層気のたるんだのを感じながら、ストーブの石炭からポッカリ、ポッカリ暖い焔の立つ広い部屋の裸の卓子に向い合ってまじまじと座って居ました。 外の雪の音は厚い硝子に距てられて少しも聞えません。 非常に静かな部屋の中・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・老僧はその姿をまじまじと見ながら、老僧 よう御休みなされました。 いかがでございますか? 御気分は――法王大層よいのじゃ。第二の若僧が煙りのほそくたつ薬を持って来る。第二の若僧 お師様、 お薬を煎じて・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ 重吉はしばらく黙って、ひろ子の顔をまじまじと見つめた。ひろ子も、その重吉の二つの眼が、ふだんとちがって濃い睫毛に黒くふちとられた四角い二つのまなことなって自分の上にあるのを見ていた。「ひろ子、覚えているかい? 俺が、文学報国会なん・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫