・・・ 春風馬堤曲とは俳句やら漢詩やら何やら交ぜこぜにものしたる蕪村の長篇にして、蕪村を見るにはこよなく便となるものなり。俳句以外に蕪村の文学として見るべきものもこれのみ。蕪村の熱情を現わしたるものもこれのみ。春風馬堤曲とは支那の曲名を真似た・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・「それは鉄とまぜたり、薬をつくったりするのだそうです。」「そだら又三郎も掘るべが。」嘉助が言いました。「又三郎だない。高田三郎だぢゃ。」佐太郎が言いました。「又三郎だ又三郎だ。」嘉助が顔をまっ赤にしてがん張りました。「嘉・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・おまえのような狸をな、キャベジや塩とまぜてくたくたと煮ておれさまの食うようにしたものだ。」と云いました。すると狸の子はまたふしぎそうに「だってぼくのお父さんがね、ゴーシュさんはとてもいい人でこわくないから行って習えと云ったよ。」と云いま・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ 山椒の皮を春の午の日の暗夜に剥いて土用を二回かけて乾かしうすでよくつく、その目方一貫匁を天気のいい日にもみじの木を焼いてこしらえた木灰七百匁とまぜる、それを袋に入れて水の中へ手でもみ出すことです。 そうすると、魚はみんな毒をのんで・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・一升にたりなかったら、めっきのどんぐりもまぜてこい。はやく。」 別当は、さっきのどんぐりをますに入れて、はかって叫びました。「ちょうど一升あります。」 山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りました。そこで山ねこは、大きく延びあがって、・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
・・・悪いのには木精もまぜたんです。その密造なら二年もやっていたんです。」「じゃポラーノの広場で使ったのもそれか。」「そうですとも。いや何と云っても大将はずるいもんですよ。みんなにも弱味があるから、まあこのまま泣寝入でさあ。ただまああの工・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・を、飾らない、主観を混ぜない筆致で短かいいくつかの話に書いてある。 新しい力が、古い根づよいものによって決められ、しかしついにはいつか新しい力が農村の旧習を修正してゆく現実の有様を描いてある。こういう本は字引がいらない。 十一月・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ただ従来、そのひとの程度というとき、個人的な限度で、各人の天質とか仁とかいう範囲でだけ内容づけられていたものを、もっと社会的な複雑な要因の綯いまぜられたものの動きとして感じているから、そういう実質でかりに我々の程度というときには、個人に及ぼ・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ 縋りつくようにきかれた男は、苦笑ときの毒さとを交ぜてぼんやり答えている。「困っちゃったわ、全く。今日はじめて出たのに、こんな目に会って……」 半分啜り上げるような早口で歎く娘は、空のリュックを吊って前へうしろへ揺られているので・・・ 宮本百合子 「一刻」
・・・挽肉をみじんにきざんだ玉葱と一緒にいためて食塩と胡椒で普通に味をつけ、卵を茹でてそれを細かく切って、いためておいた肉とまぜます。別にめりけん粉を卵と水でゆるすぎない様にといたものを拵えて、フライパンにバタをぬってめりけん粉をといたものを少し・・・ 宮本百合子 「十八番料理集」
出典:青空文庫