・・・それ故に外国文学に対してもまた、十分渠らの文学に従う意味を理解しつつもなお、東洋文芸に対する先入の不満が累をなしてこの同じ見方からして、その晩年にあってはかつて随喜したツルゲーネフをも詩人の空想と軽侮し、トルストイの如きは老人の寝言だと嘲っ・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・二葉亭はとても革命が勃発した頃まで露都に辛抱していなかったろうと思うが、仮に当時に居合わしたとしたら、ロマーノフ朝に味方したろう乎、革命党に同感したろう乎、ドッチの肩を持ったろう? 多恨の詩人肌から亡朝の末路に薤露の悲歌を手向けたろうが、ツ・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・この俗曲論は日本の民族性の理解を基礎として立てた説であるが、一つは両親が常磐津が好きで、児供の時から聴き馴れていたのと、最一つは下層階級に味方する持前の平民的傾向から自然にこれらの平民的音曲に対する同感が深かったのであろう。 二葉亭は洋・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・今日われわれが正義の味方に立つときに、われわれ少数の人が正義のために立つときに、少くともこの夏期学校に来ている者くらいはともにその方に起ってもらいたい。それでドウゾ後世の人がわれわれについてこの人らは力もなかった、富もなかった、学問もなかっ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・「あの子なら、だいいちに、心から俺たちの味方なんだ。」 こういって、古いひのきの木と、年とったたかとは、話をしていました。 夕方になると、父親と子供とは、ひのきの木の下に、どこからか帰ってきました。子供は、木の枝で造った、胡弓を・・・ 小川未明 「あらしの前の木と鳥の会話」
・・・なぜなら、人間の本当の幸福は、そうしたところにあるのでなく、たとえそれが童話であるとしても、そうした、これまでの世の中の見方、考方には、少なからざる誤りがあると信ずるがためです。 たとえ、自分達は、衣食に苦しまず、仕合にその日を送ってい・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・しかし、現在書かれている肉体描写の文学は、西鶴の好色物が武家、僧侶、貴族階級の中世思想に反抗して興った新しい町人階級の人間讃歌であった如く、封建思想が道学者的偏見を有力な味方として人間にかぶせていた偽善のヴェールをひきさく反抗のメスの文学で・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
忘れもせぬ、其時味方は森の中を走るのであった。シュッシュッという弾丸の中を落来る小枝をかなぐりかなぐり、山査子の株を縫うように進むのであったが、弾丸は段々烈しくなって、森の前方に何やら赤いものが隠現見える。第一中隊のシード・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・で彼は「此際いい味方が出来たものだ」斯う心の中に思いながら、彼が目下家を追い立てられているということ、今晩中に引越さないと三百が乱暴なことをするだろうが、どうかならぬものだろうかと云うようなことを、相手の同情をひくような調子で話した。「・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ 生命の法則についての英知があって、かつ現代の新生活の現実と機微とを知っている男女はこの二つの見方を一つの生活に融かして、夫婦道というものを考えばならぬ。 人間が、文化と、精神と霊とを持っているのでなかったら夫婦道というものは初めか・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
出典:青空文庫