・・・Monet なんぞは同じ池に同じ水草の生えている処を何遍も書いていて、時候が違い、天気が違い、一日のうちでも朝夕の日当りの違うのを、人に味わせるから、一枚見るよりは較べて見る方が面白い。それは巧妙な芸術家の事である。同じモデルの写生を下手に・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・その本は読本、書本、人情本の三種を主としていた。読本は京伝、馬琴の諸作、人情本は春水、金水の諸作の類で、書本は今謂う講釈種である。そう云う本を読み尽して、さて貸本屋に「何かまだ読まない本は無いか」と問うと、貸本屋は随筆類を推薦する。これを読・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・虎列拉には三種ありて、一を亜細亜虎列拉といい、一を欧羅巴虎列拉といい、一を霍乱という、此病には「バチルレン」というものありて、華氏百度の熱にて死す云々。これはペツテンコオフエルが疫癘学、コツホが細菌学を倒すに足りぬべし。また恙の虫の事語りて・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫